脳トレは認知症対策にはならない…脳神経内科医にリスク回避法を聞いた

脳トレは認知症対策にはならないとの報告が(写真はイメージ)
脳トレは認知症対策にはならないとの報告が(写真はイメージ)

 2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症と推定されている。認知症リスクを少しでも下げたい場合、何をすればよく、何を避けるべきか? 高齢者患者を数多く診ている米山公啓医師に聞いた。

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「若いのに脳が老化していると思う人もいれば、かなりのお年なのに頭の回転が速い人もいます。脳の老化には個人差がある。そしてそれには、生活習慣や環境が大きく関わっています」

 脳のためにやってはいけない生活習慣として米山医師が真っ先に挙げたのが、クロスワードパズルや数独パズルなど、いわゆる「脳トレ」だ。

「スコットランドの研究者が、パズルに知力低下を防ぐ効果はなく、一方で知的刺激の高い活動が脳の機能を助けると報告しています」

 米山医師は最近、エアストリーム(キャンピングカーの一種)にハマっている。きっかけは、所有する空き地に自分で小屋を建てようと思ったこと。方法を探るうち、エアストリームという選択肢にたどり着いた。どのタイプがいいかを調べ、手に入れた後は手入れ法、活用法などを調べた。空き地の視界を遮るため、板塀を作り、自分で1カ月かけてペンキ塗りをした。友人、知人を招き、料理を振る舞い、「作ったことがないけど興味を持った料理」にもチャレンジしている。

 これは一例で、要は自分で手を動かし、楽しい、面白い、美しいなどと感じることを次々にやっていけばいい。

「好きでもないのに『脳のために』とやると、ストレスになり本末転倒です。同じことの継続も、慣れてしまい脳への刺激にはならない」

■「新鮮さ」が重要

 高齢になると、白内障、難聴、変形性膝関節症などの持病から、行動範囲が狭まっている人もいる。治療によって、アクティブさを取り戻せる可能性がある。都内在住の60代男性は、聴力低下で人との会話が聞き取りづらく、それを隠すために家に閉じこもりがちになっていた。娘の勧めで補聴器を使い始めるようになり、それからは生活が一変。ボランティアや地域のサークル活動に積極的に参加。子供どころか孫ほど年が離れている若者とも交わるようになった。

「見知った人としか交流しない、一日の大半をテレビの前でぼーっと過ごす。こんな生活は脳の老化を促進させます」

 食事も、脳の若さを保つ上で重要だ。

「摂取カロリーを減らすと、肥満や動脈硬化、糖尿病、アルツハイマー型認知症など老化現象に関わる病気を防ぎ、寿命が延びる可能性があることが明らかになっています。さらに、長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子が活性化するのです」

 理想は腹七分の食事や週1度の12時間断食だが、それは無理と思う人は、朝食を90分遅く食べ始め、夕食を90分早く食べる「90分断食」でもいい。英サリー大学の研究で、この「90分断食」で、細胞内部の古くなった悪玉タンパク質が新しく作り替えられる「オートファジー」機能が活性化されることが示されている。

 調理が面倒、とスーパーの総菜や弁当、インスタント食品で食事を済ませる人もいるだろう。

「一手間加えてはどうでしょうか? 便利なのが冷凍野菜です。電子レンジで温めて添えたり、混ぜ込んだりすれば、そう面倒な作業ではありません。野菜が取れ栄養成分の幅も広がります」

 出来合いの食品は塩分、糖分が多めになりがち。インスタント味噌汁は規定量より多めの湯で溶く……など工夫を。

 運動は、認知症リスク回避に役立つ。海外の研究で、歩行よりも強い運動を週3回以上行うグループ(A)、歩行程度の運動を週3回以上行うグループ(B)、運動しないグループ(C)を5年間追跡調査したところ、Aが最もアルツハイマー型認知症の発症率が少なかった。

「のんびり歩く散歩より、運動強度を少し上げた早歩きを。私は、飼い犬の散歩も兼ねて、1日30分以上は必ず歩くようにしています」

 ここに挙げたことは、認知症リスクを下げるために最低限やるべきこと。あれもこれも、じゃないからこそ、始めやすい。早速今日から実践を。

▽米山公啓 脳神経内科医。聖マリアンナ医科大助教授を経て現在は東京・あきる野市の「米山医院」院長。近著に「脳が老化している人に見えている世界」(アスコム)

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