高齢者の正しいクスリとの付き合い方

病気の治療に普段から使われている劇薬や毒薬はたくさんある

「劇薬」「毒薬」は意外と身近
「劇薬」「毒薬」は意外と身近

 みなさんは「劇薬」や「毒薬」というとどのようなイメージをお持ちでしょうか? おそらく、「体に良くないもの」や「危険なクスリ」といった感じの方が多いのではないかと思います。

 高齢になり使用するクスリの種類が多くなってくると、その中に劇薬や毒薬が含まれている場合が結構あります。特に、劇薬は多くの方が使っています。ということで、今回は意外と身近なのに詳しく知らない劇薬や毒薬について紹介します。

 劇薬、毒薬の定義については、薬機法という法律で規定されています。ちょっと残酷な話になりますが、動物(マウス)に投与した際に50%以上が死んでしまう量(LD50)によって決まります。たとえば内服薬だと、劇薬はLD50が300ミリグラム/キログラム未満とされており、毒薬はさらに少なくLD50が30ミリグラム/キログラム未満となります。

 このLD50は注射薬だと内服よりちょっと少なくなるのですが、毒薬は劇薬の10分の1の量というのは一緒です。つまり、少ない量でも致死的になる可能性のあるクスリが劇薬、もっと少ない量でも致死的になるリスクのあるクスリが毒薬ということになります。

 この条件以外にも、治療に用いられる量と中毒を起こす量が接近しているクスリ、治療に用いられる量であっても副作用が出る可能性が高いクスリ、副作用の程度が重篤なクスリなどが劇薬、毒薬に分類されるケースもあります。

 冒頭で触れたように、こういった劇薬、毒薬は疾患の治療で実際に広く使われています。降圧薬で紹介したカルシウム拮抗薬と呼ばれるクスリの多くは劇薬に分類されますし、がんの治療に用いられる抗がん薬の多くは毒薬に分類されます。他にもたくさんのクスリが該当します。

 だからといって、これらが危険かというと必ずしもそうではありません。LD50を絶対に超えないようにきちんと安全な投与量が決められていますし、劇薬や毒薬が用いられる場合には薬剤師はもちろんすべての医療従事者がそのリスクを十分に考えて副作用が出ていないかをモニタリングしています。

 ちょっと変な言い方かもしれませんが、そうしたリスクがわかっているからこそ、より安全にクスリを使うことができるという面もあります。ですので、もしご自身の使っているクスリに劇薬や毒薬が含まれていたとしても、過剰に心配する必要はありません。

 劇薬、毒薬に限らず、誰にとってもクスリは異物であることに変わりありません。どのような副作用や相互作用が、どのようなタイミングで出てくるかは予測できないケースがほとんどです。やはり大事なのは、「何か体の異変を感じたら、クスリの影響を疑ってすぐに申し出る」です。安全にクスリと付き合っていきましょうね。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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