抜群の制球力で「精密機械」と称された元広島カープの投手・北別府学さんの命を奪ったのは、白血病でした。まだ65歳の若さです。白血病は細胞の種類によって骨髄性とリンパ性、病気の進行によって急性と慢性があり、大きく4つに分かれます。たとえば急性リンパ性白血病は抗がん剤が効きやすく、競泳の池江璃花子さん(22)がこの病気を克服して競技に復帰したことは記憶に新しいでしょう。
ところが、北別府さんの白血病はこれらとは別で、成人T細胞白血病(ATL)です。ウイルス感染が原因となる特殊なタイプで、感染した母親の母乳から感染する珍しい経路になります。5年生存率が1割で、難治性なのです。
このウイルスは分布に特徴があって、沖縄や九州に多くみられます。都道府県別で白血病の死亡率が最多の沖縄は、このウイルスの感染率が高い。北別府さんも、鹿児島出身でした。沖縄や九州以外では、東北の三陸地方や北海道に多い傾向があります。元宮城県知事の浅野史郎さん(75)も、2005年からこの病気で闘病中です。
北別府さんが発症したのは18年。20年5月に骨髄移植を受けています。それから3年での最期となりました。2人の明暗を分けたのは、どこにあるのでしょうか。
実はATLには、くすぶり型、慢性型、急性型、リンパ腫型の4つのタイプがあり、くすぶり型と慢性型は5年生存率が4~5割ですが、急性型とリンパ腫型は同1割ほど。浅野さんは当初のくすぶり型から厳しい急性転化を機に骨髄移植。北別府さんはどの型だったのでしょうか。
もう一つは、治療の要となる骨髄移植後の問題です。5月24日には、北別府さんの妻の広美さんがブログを更新。「移植の生着後、GVHD(移植片対宿主病)との闘いで様々な症状に次々と襲ってきては的確な治療をして頂き乗り越えてきましたが、今回は中々手強いようです」と記しています。
GVHDは、ドナー由来のリンパ球が患者の正常臓器を異物とみなし、攻撃することによる弊害のことで、重症化すると治療が難しい。よく知られる拒絶反応は、患者の免疫細胞が移植臓器を異物とみなし、攻撃することですから、まったく逆です。
このGVHDの重症度が問題で、軽症だと白血病の再発が減り、その後の経過がよくなることが知られています。重症の臓器障害は生死にかかわりますが、軽症はむしろプラスです。相反する反応をバランスよく管理することが欠かせませんが、ブログからはその重症化がうかがえますから、つらかったでしょう。
北別府さんのご冥福をお祈りします。