クスリを薬局で「一包化」(1回に服用する錠剤やカプセルが1つの袋にまとめて入っている)された状態でもらっている方もいらっしゃると思いますが、ほとんどの人は1種類ずつ「シート」でもらっているのではないでしょうか。錠剤やカプセルを指で押し出して服用するクスリのことで、多くは10、14、21錠(カプセル)ずつ包装されています。このシートのことを「PTP(Press through pack)シート」といいますが、ここにさりげなく重要な工夫がされていることについてお話しします。
一度、ご自身のクスリを見ていただくとわかるように、PTPシートはある程度、手で簡単に切ることができるようになっています。でも、PTPシートを1錠(カプセル)ずつ切り離すためには必ずハサミが必要で、手では切れないようになっています。つまり、手で切り離す場合はどう頑張っても2または7錠(カプセル)ずつになります。
じつは、以前は手だけで1錠(カプセル)ごとに切り離せるようなPTPシートがたくさんありました。でも、今はそれができなくなっているのです。クスリをあらかじめ1錠(カプセル)ごとに切っておいて飲みやすくしておきたい方にとっては、なんとも面倒くさいことになっているといえます。しかし、これには重要な理由があるのです。
1錠ずつに切り離せるPTPシートが使われていた頃、まれにではありますが、高齢者、特に超高齢者がPTPシートのままクスリを服用してしまう事例があったのです。「クスリをシートから出さずに服用するなんてことある?」と思われるかもしれませんが、私自身これまでに2例ほど経験しています。PTPシートは切り離すと角が鋭利になるため、それが食道や胃を傷つけてしまう危険があります。
また、それを取り出すためには胃カメラを使わなければいけません。つまり、とても悲惨な結果になってしまうのです。そういったPTPシートの誤飲を防ぐために、今のPTPシートは簡単には1錠ずつに切り離せないようになっているのです。
ただし、当然ですがハサミを使って1錠ずつに切り離してしまうと、誤飲のリスクは同じように生じます。「自分は絶対に大丈夫」と思っていても、こういったトラブルは突然起こってしまうものです。私はPTPシートを誤飲した事例を経験しているので、個人的には1錠ずつに切り離してほしくないというのが本音です。ただ、ピルケースを使用している場合など、どうしても切り離して保管したいという方は、そういった誤飲が起こった場合のリスクを十分に理解しておいていただきたいと思います。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方