糖尿病患者の「足」はどうなっているのか? 15%に異変あり

すでに足の老化は始まっている
すでに足の老化は始まっている

 糖尿病による「足病変」は糖尿病の重要な合併症のひとつ。世界では、糖尿病患者の15%は足病変を合併し、そのうち14~24%は切断に至るといわれる。そのきっかけは足のちょっとした傷だというが、糖尿病の人の足はどのような特徴があり、どんな傷がそんな重大事に発展するのか。足と糖尿病の専門病院である下北沢病院糖尿病足病センターの富田益臣医師に話を聞いた。

「糖尿病やその予備群と診断された方は『やせなさい』『運動しなさい』と言われると、お金もかからず手軽なウオーキングを始めるケースが多い。しかし、その年齢の人は足の老化が始まっているうえ、糖尿病の影響ですでに足の健康を損ねていることが少なくありません。にもかかわらず“健康な足”であることを前提に無理を続けた結果、足に傷ができたり、重症となり足を失うこともあります」

 足の老化で代表的な症状は、足の皮膚の乾燥やそれによるひび割れ、角質の肥厚、脂肪の硬化、むくみ、巻き爪などのトラブル、筋力低下による土踏まずの消失、膝や足首など関節可動域や血流の低下など。

「年を取るにつれて足の皮膚は乾燥し、脂肪は薄く硬くなり、弾力が失われます。足首などの関節可動域が狭くなることも加わり、結果として歩く時の足の裏や膝などへの衝撃を弱められなくなるのです。糖尿病の人はただでさえ、過体重により足底にかかる圧力が高い。しかもインスリン抵抗性によって、筋合成より筋分解が上回り、炎症性サイトカインが筋力を低下させています。更に足底のアーチを形成して衝撃や体重の負荷を軽減させるなどの働きを持つ足の内在筋を萎縮させることもわかっています」

 また糖尿病の人で血流障害を合併していると、酸素や栄養が十分に足全体に行き渡らず、創傷(潰瘍、壊疽)が起きやすい。しかも、糖尿病神経障害により、シャルコー関節(神経障害性関節症:明らかな重度の外傷がなく、関節破壊や病的骨折を生じる疾患)で、足を骨折しても、神経障害により痛みの自覚がなく異変に気がつきにくいこともある。

「そのため、骨折を起こして足が変形し、潰瘍、壊疽が進んでいるのに気づきにくい。結果、足切断という最悪のケースに至ってしまうのです」

■「不健康な足」では歩くこと自体がリスク

 足に生じる傷はその深さにより「びらん」「潰瘍」「壊疽」に分類される。

 びらんは4層ある皮膚の浅い層までの欠損、潰瘍は深層にある真皮にまで及ぶ欠損、壊疽は皮下組織や筋肉までが壊死して黒色や黄色に変化した状態を言う。

 糖尿病の人が足を失うきっかけは、灼熱の砂浜を素足で歩いてやけどしたり、足をぶつけて外傷を負ったり、足の冷えを湯たんぽで温めて低温やけどしたり、血流の悪い足の外反母趾などを放置したことによるものをイメージしがちだ。むろん、そうしたケースもあるが、糖尿病の人はじつは「普通に歩くこと」自体にリスクが潜んでいるのだ。

 また「不健康な足」を放置したままウオーキングや運動を続ければ、重心の上下左右の移動に過不足が起き、エネルギー効率が低下するばかりでなく、関節や筋など骨格構造を損ない、ひざ痛、腰痛を招くことになりかねない。

 では、どうすればいいのか?

「糖尿病の人は、毎日、足を清潔に保つこと、靴下をはくこと、そして自分の足にあった靴を履き、足に異常がないか自分で観察することです。自分で見られないなら、家族や友人に確認してもらうことも大事です。そして、おかしいなと感じたら主治医や足病変に詳しい医師に少なくとも1年に1度は足を定期的に診てもらいましょう」

 トラブルの原因は歩き方や靴、血糖、血流、傷など多岐にわたる。そのため米国、カナダなど世界20カ国には足病医と呼ばれる専門医がいるという。

「ところが日本には、患者の靴下を脱がせて足病変を診る医師は非常に少ない。ある調査では、糖尿病患者の5%しか足を診察されていませんでした。それが、足病変の発見・治療が遅れてしまう原因です。医療者が足を診察するのを待つのではなく、自分から靴下、靴を脱いで、かかりつけの医師に相談するといいでしょう」

 あなたは大丈夫?

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