Dr.中川 がんサバイバーの知恵

タレント原千晶さんは手術から13年で発症…がん手術後のリンパ浮腫は放射線治療なら免れる

原千晶さん
原千晶さん(C)日刊ゲンダイ

「とうとうリンパ浮腫を発症してしまいました」とツイートしたのは、タレントの原千晶さん(49)です。2010年に子宮体がんで卵巣や卵管、リンパ節とともに子宮を全摘。手術から13年を経て、その後遺症が現れたのです。造影剤検査の結果、「左脚4カ所」にリンパ液の漏れが判明したといいます。

 リンパ浮腫とは、リンパ液の流れに異常が生じてむくむ病気です。子宮がんや卵巣がん、乳がんなどでリンパ節を切除すると、子宮がんと卵巣がんでは脚、乳がんでは腕がむくむことがあります。初期は指で押すとへこむようなむくみで、進行すると脂肪が沈着するため押してもへこみません。

 腕や脚の太さが、元の2倍くらいになることは珍しくなく、服はむくみがある方のサイズで選ぶことになります。さらに腕や脚のだるさ、痛み、しびれもあり、リンパ液のうっ滞で免疫力が下がると、感染や炎症も生じやすく、とても厄介な後遺症です。原さんは治療から13年ですが、30年たって発症することもあります。

 男性も前立腺がんでリンパ節を切除すると、リンパ浮腫になりますが、前立腺がんでのリンパ節切除はそれほど多くなく、ほとんどが女性。リンパ浮腫を起こす主体は乳がんと子宮がんで、子宮がんのうち子宮頚がんなら、治療法の選択でリンパ浮腫を避けられる可能性があるのです。

 子宮頚がんのステージ2bは、世界的に化学放射線治療が中心です。ところが日本では長く手術が1番手に推奨され、化学放射線治療は2番手でした。日本で化学放射線治療が世界と同じ1番手になったのは昨年からです。

 がん治療の先進国・スウェーデンの場合、ステージ2bの子宮頚がんに手術が行われるのはわずか4%。9割が化学放射線治療です。ガイドラインの改定が遅れた日本では、少しずつ化学放射線が増えてきたとはいえ、最近になってやっと手術と同等に。9割のスウェーデンに比べると、もっと化学放射線治療を増やすことが必要です。

 化学放射線治療なら、リンパ節が残るため、リンパ浮腫にはなりません。下痢や胃腸障害、吐き気などはあるものの、一時的です。

 医原性とは、治療が原因で病気や障害が生じることを意味します。つまり、ガイドラインの改定前に子宮頚がんの手術でリンパ浮腫になったケースは、医原性といえなくもないでしょう。世界的には、化学放射線治療が治療の中心ですから。特に手術後に再発予防で(化学)放射線治療を受けると、リンパ浮腫リスクが高い。これでは、時間も費用もかかるので、最初から化学放射線治療がベターです。

 リンパ浮腫の治療は、リンパのうっ滞改善効果がある弾性ストッキングをはくのがひとつですが、根本的な解決にはなりません。リンパ管を静脈につなぐリンパ管細静脈吻合(ふんごう)術という超微細な形成外科手術を受けると、早期は根治が、重症例でもむくみの改善や炎症発生頻度の低下が期待できます。

 男性の前立腺がんも、放射線治療ならリンパ浮腫の心配はほとんどありません。手術以外の治療法を選択することがとても重要です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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