痛風かと思ったら…足の親指の強い痛みは「強剛母趾」かもしれない

写真はイメージ
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 足の親指の付け根が強く痛む「強剛母趾」という病気がある。痛みの場所から、勘違いして痛風の治療を受けてずっと改善しない人も少なくないという。足の疾患を専門に扱う「足のクリニック表参道」院長の桑原靖氏に聞いた。

「親指の付け根が痛くて内科を受診し、尿酸値の数値が少しでも高ければ痛風と診断され、実際に痛風の治療を受けている患者さんが時々います。痛風発作であれば一般的に1~2週間で痛みが和らぎますが、強剛母趾はそれと違った経過をたどるため、もしかしたら他の足の病気かもしれないとご自身で調べた結果、当院を受診される方もいます」

 強剛母趾は、歩行などで足の親指の付け根の関節(MTP関節)を上に反らした際、そこが痛むのが特徴だ。変形性関節症のひとつで、多くは加齢に伴い足のアーチ構造が崩れて低くなることで発症する。体質的に関節の構造が硬い男性によくみられ、長年足を使ってきた50代以降に発症しやすい。

「足のアーチが低くなると足底部分は前後に広がろうとしますが、実際には広がらずMTP関節内(特に親指)に過度の負荷がかかります。関節構造が緩いと中足骨が内側に押し出されて外反母趾になるのに対し、関節構造が硬いと内側に押し出せずそのままの位置で骨同士が当たり続けます。その結果、関節軟骨がすり減ってMTP関節の隙間が狭くなり、むき出しになった骨同士が当たって炎症を起こしたり、骨棘ができて痛みが生じるのです」

 強い痛みから、踏み返し動作ができず歩けない、出っ張った骨棘が靴に当たって痛いなど、強剛母趾は日常生活に支障をきたしADL(日常生活動作)を大きく低下させる。また、無意識に痛みをかばうような歩き方になり、踏み返し動作が必要ないよう足を内股にして歩くといった独自の歩行法になっていく。すると、親指の付け根だけでなく他の部位にも連鎖的な負担がかかって痛みが生じ、別の足トラブルを引き起こすリスクも高くなる。

■変形が少ないため治療の開始が遅れやすい

 早い段階での治療が望ましいが、足が大きく変形する外反母趾と違って、強剛母趾は目に見える変形が少ないため、治療の開始が遅れやすい。

「痛風と鑑別するためにもレントゲンを用いた関節間の隙間の狭小化や、骨棘の有無の確認が必要です。強剛母趾は自然治癒することはなく、痛みを放置して関節内部で炎症を繰り返すと骨棘のほか異所性骨化が生じ、母趾がまったく動かなくなる恐れがあるので早期の診断と治療が大切なのです」

 軽症の場合、足のアーチを整えて正しい歩き方に戻す医療用インソールの着用が有効だ。価格は保険3割負担であれば1万5000円程度で、医療機関でオーダーメードで作製できる。足底が船底状でつま先が上がっているロッカーソールの靴も、歩行時の親指の背屈が最小限に抑えられ痛みを軽減できるという。

 痛みが強く、歩行が難しい場合には手術が行われている。

「強剛母趾の標準手術は関節固定術が一般的で、これは母趾が反らないようMTP関節をネジなどで固定する方法です。痛みはなくなりますが、関節をがっちりと固定しているので手術後は十分な踏み返し動作ができないデメリットがある。そこで当院では、強剛母趾になった関節を再利用して関節を作り変える『関節温存形成術』を行っています」

 関節温存形成術では親指の側面を5センチほど切開し、上部に飛び出た骨の部分を特殊な医療用ノコギリで2分割に切る「骨切り」を行う。切った骨を本来あるべき位置に収めてインプラントで固定し、関節の噛み合わせを正す。関節温存形成術を行っている病院はあまり多くないため、ホームページなどで事前に調べておくとよいだろう。

「関節温存形成術を受けた60代の患者さんは、手術の翌日から歩行訓練のリハビリを始め翌々日には自分の足で歩いて退院されました。手術2週間後に傷口の抜糸をし、炎症を抑えるステロイド注射を受けたのち、手術から1カ月半後には足の痛みは完全になくなり今では問題なく歩かれています」

 手術時に挿入されたインプラントは、時間が経てば骨に吸収されるので取り出す必要はない。術後はインソールを作製して日頃から着用し、足のアーチを保持できれば再発するケースはほとんどないという。

 病院によっては治療の選択肢が増えている。悪化させないためにも、早期に治療を開始したい。

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