「ハイパーサーミア療法」はがん治療の開始とともにスタートすべき…脳神経外科医が提言

周りの血管を拡張し血流を増やす
周りの血管を拡張し血流を増やす

 かつてがんは入院して治療を受けるイメージがあった。しかし、いまは違う。実際、厚労省の患者調査によると、2002年には平均35.7日と1カ月以上入院するのが平均だったが、08年には23.9日、20年には20日を切るほど入院期間は短縮している。科学的に効果のある治療法がわかってきたからだ。入院中に受けるがん治療とはいわゆる標準治療が中心。有効性が認められた手術、放射線治療、投薬治療のほか免疫治療がある。問題は、これらの標準治療の多くは、すぐに尽きてしまい、がん患者はその後何をしたらいいのかわからないことだ。そんながん患者とその家族らに注目されているのが「ハイパーサーミア療法」だ。20年10月から最新の治療器を導入し、働きながらがんと闘う患者らに希望を与えている、相武台脳神経外科の加藤貴弘院長に話を聞いた。

「数百人の患者さんを治療していますが、その効果に驚いています。当院でハイパーサーミア治療を受けているのは肺がん、膵臓がんの末期の患者さんが多いのですが、病状が安定したり、進行が遅くなるなどを経験しています。中には余命3カ月と診断されながら、2年以上通われている方もおられます」

 余命数カ月と宣告された70代の転移肺がんの女性は「来春の娘の結婚式までは生きたい」という願いをかなえ、家族との海外旅行も実現できたという。膵臓がんの女性は、都内のがん拠点病院に通っていたが、家族がハイパーサーミア療法の評判を聞き、治療をスタートさせたという。

「治療開始4カ月ほどで膵臓がんの腫瘍マーカーであるCA19-9(基準値37U/ミリリットル以下)が5分の1ほどに低下しました。この間、抗がん剤や放射線治療なども行っておりますので、上乗せ効果があったのだと思います」

 ハイパーサーミア療法は悪性腫瘍に対する治療として一定の条件の下、公的保険の適用を受けることができる。この女性はその効果を実感し、公的保険適用後も自費診療を続けているという。

 そもそもハイパーサーミア療法とはがん細胞が42.5度以上の熱に弱い性質を利用してがんを治す治療法のこと。それだけ聞くと、わざわざ治療器など使わなくても入浴すればよさそうだが、そうではない。温水などでは体表面の温度は上げられても体の奥底に潜むがん細胞の塊の温度を上げることができないからだ。そのため、高周波で局地の温度を上げる専用のハイパーサーミア治療器によってがん細胞を攻撃する。

「治療は簡単です。患者さんは身に着けている金属物を外し、加熱する部分の着衣を脱ぎ、治療テーブルに40~60分間、横たわるだけ。テーブルがガントリードームに移動し、患部に上下電極が装着され、治療が行われます。この治療法が優れているのは、がん種にかかわらず効果が期待できること、がん細胞以外に影響を与える可能性が少ないことです」

 正常細胞は温度が上昇すると、周りの血管を拡張して血流を増加させて熱を血液によって移動させて体外に逃がす仕組みがある。ところが、がん種にかかわらずがん細胞は新生血管と呼ばれるもろい血管に覆われているため、それができない。結果、熱がこもって壊れやすい。そもそも酸素を使わずエネルギーをつくるがん細胞は低酸素状態であり、熱の影響を受けやすいという特徴がある。

■治療機器の性能が向上

 むろん、他の治療法と同じで副作用がまったくない、というわけではない。皮下脂肪が過度に加熱されると硬結と痛みが生じることがある。しかし、それも1~2週間で消失し、後遺症も残らないという。

「最近は治療器の性能が上がっており、当院では現時点でそうした患者さんはおられません。また、この治療法が素晴らしいのは直接がん細胞を攻撃する、殺細胞効果があるということだけではありません。がん細胞を温め、周りの血管を拡張し、血流を増やすことで、抗がん剤のがん細胞への取り込みを増やし、放射線の増感作用を強化し、正常細胞が本来持っているがん細胞への攻撃力(NK細胞、細胞傷害性T細胞、樹状細胞など)を増やし、強化できることにあるのです」

 実際、併用することで抗がん剤、放射線治療の上乗せ効果が認められている。それによって抗がん剤の量や放射線治療の線量を減らし、副作用に苦しむ患者の負担を減らすことができているという。

「私は、がんと診断されたら早い段階で標準治療を軸にこの治療法を併用することが望ましいと考えています。がんは治る病気になりつつあります。それは何か決め手となる治療法があるというより、総合的な治療による成果です。ハイパーサーミアはその有力な治療法のひとつだと思います」 9月8、9日には日本ハイパーサーミア学会第40回大会が神奈川県伊勢原市の市民文化会館で開催される。気になる人はその情報を集めるのもいいかもしれない。

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