「ステノトロフォモナス・マルトフィリア」──。なんだか舌を噛みそうな名前ですが、こんな名前の細菌が存在します。「Steno(わずかな)tropho(栄養で生きる)monas(種族)の中で、malto(麦芽)に親和性のある(philia)もの」というネーミングです。
以前は「Pseudomonas maltophilia」または「Xanthomonas maltophilia」と呼ばれていました。土壌や汚水など湿潤環境に広く生息する多剤耐性の細菌で、ヒトの糞便から検出されることもあります。
ステノトロフォモナス・マルトフィリアは、平素は無害と言えるのですが、病院感染起因菌として1970年代ごろから報告され始め、1990年代になって広く注目されるようになりました。易感染患者において呼吸器感染、血流感染、手術部位感染などを起こし、肺炎、敗血症、心内膜炎などに進展して死因となることもあります。
血管血圧測定機器、呼吸器系装置、透析機器、コンタクトレンズ、精製水、消毒薬、浴槽などの汚染を介して病院感染を起因にした例が多く報告されています。Pseudomonas属である緑膿菌とは、伝播経路、抗菌薬耐性など類似点も多く、注意が必要であると考えられます。
ステノトロフォモナス・マルトフィリアは、感染防止目的でβ-ラクタム系抗菌薬を長期にわたって使用することにより、菌交代現象で検出されることが多いともいわれていて、最も大きな特徴は、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系といったすべてのβ-ラクタム系抗菌薬が効かないことです。特に多くの感染症において切り札的に用いられるカルバペネム系抗菌薬までもが効きません。
ですから、感染時の治療では、カルバペネム系薬剤への耐性に注意する必要があります。第一選択薬はST合剤とされていて、他にはミノサイクリンやニューキノロン系薬が有効なケースもあるようです。
教科書的には習っていても、薬剤師になって医療現場で初めてこの細菌を見かけたときには、「本当にカルバペネム系抗菌薬が効かないんだ!」とびっくりしました。その後も現場で時折見かける細菌なので、常に注意をしています。
感染症別 正しいクスリの使い方