高齢者の方の中には、お酒を飲むことが好きな方もいらっしゃるでしょう。私は病棟での業務に携わっていますが、退院のときに「お酒はどのくらい飲んでもいいの?」と質問されることが時々あります。今回はクスリとお酒の関係性についてお話しします。
結論から言ってしまうと、「クスリを使っている以上は、お酒は飲まないでください」となります。薬剤師という職業上、そうとしか言えません。つまり、「お酒とクスリの相性は良くない」ということなのです。
クスリの中には肝臓で代謝を受けて(解毒されて)体外に排出されるものがたくさんあります。そして、お酒に含まれるアルコールも肝臓で代謝を受けます。お酒を飲むと肝臓の代謝機能がアルコールの代謝に集中してしまうため、クスリの代謝がうまくされなくなってしまうのです。
これが何を意味しているかというと、本来なら肝臓で代謝を受けるはずのクスリの作用が強くなったり、場合によっては副作用のリスクが高くなってしまうということになります。肝臓で代謝を受けないクスリしか使っていない、という場合はこの限りではありませんが、先ほどお話しした通り、多くのクスリが肝臓で代謝を受けます。こういった理由から、「お酒は飲まないでください」という話になるのです。
それでもお酒が飲みたいという方もいらっしゃるでしょうから、ここからはあくまで私見として読んでいただければと思います。みなさんは、肝臓で代謝できるアルコールの量をご存じですか? 諸説ありますし、もちろん個人差もあるのですが、ビールだと500ミリリットルくらいの量で肝臓でのアルコールの代謝は飽和する(手いっぱいになる)といわれています。それ以上の量のアルコールを摂取すると、肝臓ではなく主に筋肉で代謝されるようになります。
さて、ここでひとつの線が引けるかもしれません。ビール500ミリリットルくらいに相当する量のアルコール摂取までは、肝臓の代謝機能には余裕があるともいえます。つまり、そのくらいまでであれば、クスリの代謝に及ぼす影響はまだ許容できるといえるかもしれません。ただ、たとえそうだったとしても、毎日その量のアルコールを摂取し続けると、クスリへの影響も大きくなります。そのため、「時々飲むとしても、そのくらいの量まで」という感じの考え方になると思います。
生活していく上で、お酒を飲む機会はあるでしょう。ここまでの話は、そういった機会があったときのひとつの私見として、頭の隅に覚えておいてもいいかもしれません。ただ、大事なことなのでもう一度言います。
「クスリを使っている以上は、お酒は飲まないでください」
これが薬剤師としてお伝えできる唯一はっきりしたことです。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方