前回、細菌の培養検査についてお話ししました。では、「アンチバイオグラム(Antibiogram:抗菌薬感受性率表)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
ある施設において、一定期間に分離された微生物の各種抗菌薬への薬剤感受性率を表の形式にしたものです。この表を見ると、ある特定の感染症の原因菌としてどのような菌が多いのか、検出された細菌にどの抗菌薬が効くのか、効かないのか……などの情報が得られます。
前回お話ししたエンピリック(経験的)治療においても非常に役立ちます。たとえば、入院されていない一般の方が罹患する尿路感染症の原因菌は70%以上が大腸菌であることが知られているのですが、この大腸菌についてどの程度の確率で耐性菌が出てくるのかは地域によって異なります。
昨今、大腸菌ではフルオロキノロン系抗菌薬に対する耐性菌が問題となっています。施設や地域において、どの程度の確率でフルオロキノロン耐性菌が検出されているかが分かると、初期治療で使用する抗菌薬も変わってくるのです。
同様にMRSAと呼ばれるメチシリンに耐性化した黄色ブドウ球菌の地域での検出率も、感染症の治療に大きな影響を与えます。
ちなみに、日本で示されている「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)」では、2020年における黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率は50%、大腸菌のフルオロキノロン耐性率は35%とされており、2027年の目標値としてはそれぞれ20%、30%となっています。
また、入院患者さんの尿路感染を見てみると必ずしも大腸菌の割合が高いとは限らず、さまざまな細菌が原因菌となることが分かっています。これらにおいても、施設内でどのような細菌が原因となることが多いかについてのデータを知ることが、初期治療で非常に重要になるのです。
感染症別 正しいクスリの使い方