なぜ帯状疱疹ワクチンの対象年齢が、50歳以上から18歳以上に拡大されたのか

頭痛と間違えることもある
頭痛と間違えることもある

 チクチクピリピリといった痛みの後、水ぶくれを伴う赤い発疹ができる帯状疱疹。これを予防する帯状疱疹ワクチンはこれまで50歳以上が対象だったが、対象年齢が一気に拡大し、条件付きとはいえ18歳以上になる。なぜ? 愛知医科大学皮膚科学講座教授の渡辺大輔医師に聞いた。

「帯状疱疹は50歳以上で患者数が増加する病気です。一方で、若年で帯状疱疹を発症する人も増えています」

 帯状疱疹は、水疱瘡のウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス)が原因となる病気だ。

 水疱瘡は一般的に子供の頃に経験するが、水疱瘡が治ってもウイルスは背骨近くの神経節に潜伏している。

 そして、過労やストレス、病気などで免疫力が低下した時に再び活性化して、帯状疱疹として発症する。50歳以上で発症率が高まるのは、加齢に伴い免疫力が低下するから。では、若年の発症が増えているのは?

「2014年に水疱瘡の定期接種が始まったことで、子供の水疱瘡が激減。それによって、ブースター効果を得られにくくなったのです」

 ブースター効果とは、体内で一度作られた免疫機能が、抗原に再度接触することで、免疫機能が高まることを指す。

「子供が水疱瘡を発症すると、ウイルスが空気中にまき散らされ、それを周囲の人が吸引し、水痘・帯状疱疹ウイルスに対するブースター効果を得られる。しかし、その機会が減ったので、若年の帯状疱疹発症者が出てきているのです」

 帯状疱疹を予防する強い味方となるのが、帯状疱疹ワクチンだ。発症リスクを下げ、たとえ発症しても重症化を防ぐ。

 対象者は前述の通り、従来の「50歳以上」から、「帯状疱疹の発症リスクが高い18歳以上」と拡大。具体的には、がんやHIV感染症にかかっている人、自家造血幹細胞移植や腎移植を受けた人など、免疫力が低下する事象を持っている18歳以上となる。なお、帯状疱疹ワクチンは「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2つがあり、接種の対象年齢が拡大したのは、「不活化ワクチン」のシングリックス(商品名)になる。

■後遺症が年単位で続くケースも

 ワクチン接種で帯状疱疹予防に努めたいのは、帯状疱疹そのものも痛みなどがあり厄介だが、さらに厄介な「帯状疱疹後神経痛」という後遺症があるからだ。

「帯状疱疹の痛みは、ウイルスで皮膚や神経に炎症が起こって生じます。しかし治療が遅れたり、帯状疱疹が重症化すると、神経が損傷されて過度の興奮状態になり、わずかな刺激でも痛みとして感知するようになる。これが帯状疱疹後神経痛で、帯状疱疹が治癒した後も、痛みが続きます」

 帯状疱疹後神経痛の痛みは、「焼けるような」「締め付けるような」「ズキンズキンとする」などと表現されることが多い。ひどい人では「服が触れるだけで痛い」「痛くて顔も洗えない」と、日常生活や睡眠に支障をきたす。そして、帯状疱疹後神経痛は、年単位で症状が続くこともあるのだ。

「帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛では、治療も異なります。帯状疱疹は抗ウイルス薬が治療の基本であるのに対し、帯状疱疹後神経痛はオピオイド、神経ブロック、抗てんかん薬、抗うつ薬などで痛みのコントロールを目指します」

 帯状疱疹後神経痛を回避するには、まずはワクチン接種で帯状疱疹の発症リスクを下げる。加えて、免疫力を極力低下させない。

 そしてもし帯状疱疹らしき症状があったら、すぐに行動を起こすことだ。

「赤い発疹の前に、体の片側にチクチクピリピリといった痛みが出てきます。皮膚の違和感と捉えた方がいいかもしれません。いずれにせよ、体の片側に何らかの皮膚の違和感があったら、その段階で皮膚科を受診するべきです。帯状疱疹は顔に出ることもあり、その場合は、頭痛と感じる人もいます」

 “様子見”は禁物だ。

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