健康だと思っていたのにまさか自分が──そんな病気のひとつが心房細動だ。無症状の人が4割との報告もある。
心房細動は、心房が細かく動いてけいれんしている状態で、脈が不規則になる「不整脈」の一種。不整脈にはさまざまな種類があり、中には生命の危険を伴い、突然死の原因ともなり得るものがある。心房細動は、まさにそれに当たる。
「心房細動の患者数は年々増えており、日本では2030年に推定108万人になるとみられています。しかし無症状の心房細動も多く、それらを含めるともっと患者数が多いと考えられます」
こう指摘するのは、京都府立医科大学不整脈先進医療学講座准教授の妹尾恵太郎医師。
心房細動の主な症状は動悸、胸苦しさ、息切れ、めまいだが、「無症状が4割」というのは、次の2つが考えられる。
まず、症状が軽く、本当に自覚していないケース。
心房細動を含む不整脈は非常に気まぐれで、いつ起こるか分からない。健康診断を毎年受けていても、そのタイミングで心房細動が起こっていなければ発見されない。「健康診断で異常なし」でも安心できない。
次に、症状に慣れてしまっているケース。
「動悸や息切れがあっても、軽ければ危険性を認識しない。忙しいからと病院へ行けず見過ごしているうちに体が慣れてしまう」(妹尾恵太郎医師=以下同)
ある70代患者は年1度の健康診断は異常なし。健康に気遣っており、心電計付き上腕式血圧計で心電図の乱れが出た時は機械の故障だと思っていた。
睡眠時無呼吸症候群と高血圧がある60代患者は階段を上る時に動悸・息切れを感じていたが、「年のせい」とみなしていた。
この2人はいずれも、心電計付き上腕式血圧計で測定した心電図を医療機関に見せたことで心房細動発見に至ったが、それがなければどうなっていたか分からない。
というのも、心房細動は前述の通り突然死のリスクが高いから。心房細動は心房のけいれんで血液がよどみ、血栓ができやすくなる。それが血流に乗って脳に飛び、血管に詰まると脳梗塞が起こる。
「心房細動から起こる脳梗塞は『心原性脳塞栓症』といって、命に関わる大きな脳梗塞になることが多い。一命を取り留めても、麻痺や寝たきりなど重い後遺症が残る可能性が高い」
治療が遅れると、手術後の再発リスクが高くなることもある。
■自分で脈を測って早期発見
心房細動の治療は第1選択が薬物治療、十分な効果を得られない場合、カテーテルアブレーションが検討される。
カテーテルアブレーションは、足の付け根からカテーテル(細い管)を心臓まで入れ、異常な電気信号を出している部位を焼灼する、比較的、体への負担が軽い手術だが、再発リスクが3~4割。
「心房細動になってから長いほど、術後の再発リスクが高い。発症1年未満の手術が、その後の経緯が格段に良い」
心房細動が無症状、あるいは症状が軽くても、脳梗塞をはじめとする病気のリスクは症状がある場合と変わらない。「自分は大丈夫」とむやみに思わないことだ。
無症状が4割という状況の中、どうやって早期発見をするのか?
「一番手軽なのは検脈です。特に、軽い息切れや動悸の症状を感じたら、検脈で脈を確認してください」
「トン・トン・トン……」と規則正しく打っていれば問題なし。「トン……トトン・トン・トッ……トン・トン・トトン」などのように不規則なら病院へ。
心電計付き上腕式血圧計や心電図を測定できる機能がついたスマートウオッチを利用するのも手だ。
ただし、「機械が壊れている」「しばらく様子を見よう」などと思って放置していれば意味がない。検脈の場合と同様、病院で検査を。
繰り返しになるが、健康診断で異常なしでも、その時に心房細動が起こっていなかっただけかもしれない。決して「心房細動ではない」わけではないのだ。