糖尿病の高齢者は「肉」を食べても大丈夫? 赤身肉はリスクというけれど…

赤身肉は糖尿病の発症リスクをあげるとの情報もあるが…
赤身肉は糖尿病の発症リスクをあげるとの情報もあるが…

 高齢者は自然と筋肉量が減るから意識して肉を食べるべし──。近年こうした医療情報が新たな医療常識として流れている。ところがその一方で、豚や牛などの赤身の肉は糖尿病の発症リスクを上げるとの情報もある。どうしたらいいのか? 糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)院長の辛浩基医師に聞いた。

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 牛、豚、羊といった赤身肉を週に2回以上食べると2型糖尿病の発症リスクが高まる。そんな研究結果が米国のハーバード大学大学院などの研究チームによって発表された。21万6695人の健康状態を最長36年間追跡したデータを分析。その結果、もっとも多く赤身肉を摂取する人(1日1.56~1.97食)は、最も少ない人(1日0.26~0.45食)と比べると、2型糖尿病の発症リスクが62%高かったという。しかも、2型糖尿病の発症リスクは加工済み赤身肉では51%、未加工の赤身肉では40%上昇し、糖尿病の診断を受ける10~15年前の食習慣が発症との関連が深かった。

「実は赤身の肉の過剰摂取と2型糖尿病の発症リスクについては2013年にも報告されています。欧米の著名な糖尿病専門誌に掲載された研究で、欧州8カ国の成人34万人余りを11.7カ年追跡調査した中で、2型糖尿病を発症した1万2403人を分析。未加工と加工の赤身肉を50グラム取るごとに2型糖尿病の発症リスクがそれぞれ18%、20%増加したと報告しています」

 糖尿病はお米に代表される炭水化物の過剰摂取により、血液中にブドウ糖があふれるというイメージがある。なぜ赤身肉の過剰摂取が2型糖尿病の発症につながるのか。

「ハーバード大学大学院らの研究チームも、赤身肉の摂取はインスリン感受性を低下させる飽和脂肪酸やインスリン抵抗性を高める硝酸塩が含まれていることを指摘しています」

 とはいえ、これは欧米の研究で日本人には関係ないだろうと思う人もいるかもしれない。しかし、アジア人を中心にした大規模試験でも同様な研究結果が報告されている。

 日本でも肉の消費量の増加が2型糖尿病の患者数を増やしていることを疑わせるデータがある。1960年と2019年の日本人1人当たりの消費量を比べると、肉(鶏肉も含む)は10倍に増加した一方で米の消費量は半減。この間、糖尿病患者数は右肩上がりに増えている。

■若者とは区別して考える

 もともと赤身の肉の過剰摂取は心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントのリスクを高めるほか、大腸がんリスクの増大、男性の膵臓がんリスク、さらには死亡リスク全体を高めることなどが報告されている。そのため、日頃から気をつけている人も多いはずだ。

 しかし、近年は加齢によって、筋肉の合成より分解が進んでサルコペニアからフレイルになる高齢者が増えていて、肉を積極的に食べることを奨励する医療関係者も少なくない。

 はたして、私たちはハーバード大学大学院などの研究チームの報告を信じて、2型糖尿病、心臓病、がんの発症リスクを気にして肉を食べずにおくべきなのか、それともフレイルを恐れて肉を食べ続けるべきなのか?

「私は若い人と高齢者は分けて考えるべきだと思います。若い人はすでに食の欧米化が進み、赤身の肉をかなりの量を食べている人が多い。体形的にもBMI(体格指数)が30を超えている人もいて、今後も長期間赤身の肉を食べ続けることは欧米の研究で報告されているようなさまざまな病気の発症リスクを高める可能性があると考えられます。ですから、若い人は肉を食べるときは白い肉、つまり鶏肉や魚を食べたり、大豆などの植物性タンパク質で代用することも必要かもしれません。ハーバード大学などの研究チームは健康維持のために赤身肉を週1食とするよう推奨していますから、そのことは覚えておいた方がいいでしょう。ただし、高齢者はそもそも肉の摂取量が少ない。個人差はありますが、気にせず食べてもよいのではないか、と思います。フレイルによる運動能力の低下の解消の方が優先すべき課題でしょう」

 赤身肉は、タンパク質や鉄分、ビタミンBなどの栄養素が豊富な食材だが、その取り方は、自分の状況を考えたうえで決めることだ。

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