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コロナワクチン実用化までに投資された米国の公的資金はいくら?

mRNAワクチンの実用化は多額の財政支援があったからこそ達成
mRNAワクチンの実用化は多額の財政支援があったからこそ達成(C)ロイター

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、予防医療における大きな成功のひとつは、同ウイルスに対するmRNAワクチンの開発と実用化だったといえるでしょう。

 実際、ワクチンが実用化された初年度だけでも、米国において110万人の死亡が回避されたと見積もられています。

 mRNAワクチンの実用化は、長年にわたる科学的な創意工夫とバイオテクノロジーの進歩、そして多額の財政支援があったからこそ達成できたものです。米国政府は、mRNAワクチンの有効性が実証される以前から数億接種分のワクチンについて事前購入を保証したことは記憶に新しいと思います。

 そんなmRNAワクチンの基礎的な研究から実用化に至るまで、米国政府が公的な資金をどれだけ投資してきたかを調査した研究論文が、2023年3月1日付で英国医師会誌に掲載されました。

 この研究では、米国国立衛生研究所の資金提供に関するデータや、これまでに実施された研究の成果を収載した資料を基に米国政府がmRNAワクチンの開発に投じた資金額を見積もっています。

 1985年1月から2022年3月までの投資額を調査した結果、mRNAワクチンの実用化に至るまでに投じられた資金額は319億ドル(約4兆3400億円)でした。このうち、新型コロナウイルスのパンデミック前に投資された資金額は3億3700万ドルだった一方で、パンデミック後には、ワクチンの購入に292億ドルを、臨床試験の財政支援に22億ドルを、他の基礎的研究などの支援に1億800万ドルを費やしていました。

 論文著者らは「319億ドルの財政支援は数百万人の命を救うことにつながり、他の疾病の予防にも対応できる可能性を秘めたワクチン開発技術に必要不可欠だった」と結論しています。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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