心配ないからねー、君の想いが♪ シンガー・ソングライターのKANさん(本名・木村和=きむら・かん、享年61)が急逝され、ニュースなどでピアノのメロディーラインとともに大ヒット曲「愛は勝つ」が流れると、当時を思い出す方もいるでしょう。私もそのひとりで、とても残念です。
訃報によると、KANさんの命を奪ったのはメッケル憩室がんといわれます。メッケル憩室は、胎児と母体を結ぶ卵黄管がまれに出産後も回腸の近くに残り、腸の壁の外側にモチが膨らむように飛び出た突起物です。この名称は、19世紀に発見したドイツの解剖学者に由来します。袋状で発がんなどの物質がたまりやすく、そこががん化したのがメッケル憩室がんです。
生まれつきメッケル憩室ができるのはせいぜい2~3%。さらにがん化するのは1%前後とされますから極めてまれ。先日、元大関朝潮の長岡末弘さん(享年67)が小腸がんで亡くなりましたが、回腸は小腸の一部で、メッケル憩室がんも小腸がんのひとつです。
小腸にがんが少ないのは、いくつか理由があります。ひとつは、小腸が人体最大の免疫器官で、免疫細胞のおよそ半数が集まり、がん細胞などを未然に攻撃していること。もうひとつは24時間程度で細胞が生まれ変わる新陳代謝の速さ。大腸はそれにほぼ1カ月を要しますから、その差は歴然でしょう。
そんな監視の目をすり抜けてがんができると小腸のがんも、ほかのがんと同じように早期は無症状。相次いで小腸のがんで命を落とした2人が進行して見つかったと思われるのは小腸ならではの要因もあります。実は胃の内視鏡でも大腸の内視鏡でも、小腸には届かないため検査がしにくいのです。進行すると、腹痛や膨満感、貧血などの症状が現れます。これらは胃や大腸などの異常でも生じる症状ですが、胃と大腸の内視鏡に異常がないのに症状が続く方は小腸を調べてもらうとよいかもしれません。
その場合、カプセル内視鏡がお勧めです。直径11ミリ、長さ26ミリのカプセルにライトやレンズ、カメラ、画像転送装置などが詰め込まれたカプセルを口からのみ込むと、便から排泄されるまで消化管の様子が撮影される仕組みです。撮影は1秒に2~6コマ。小腸もチェックされます。
今回、小腸のがんが続きましたが、長引く腹痛だからといってすぐに小腸を調べるのは、その頻度からいってお勧めできません。まずは胃や大腸を調べて、それらの異常が否定された上で小腸を調べるのがステップとしては適正です。なぜなら、カプセル内視鏡は自費で12万円ほど、保険が適用されて3割負担で4万円ほど。決して安くはありません。
KANさん、朝潮さんのご冥福をお祈りします。