今年も残すところ1カ月と少しになりました。コロナで忘年会をここ数年自粛していた方も、今年はかつてと同じように、と計画しているかもしれませんね。
大人ですから、お酒を飲んでもタガを外さず楽しんで欲しいですが、なかなかそうはいかないのがアルコールの恐ろしいところ。酔っぱらった時、気をつけていただきたいことのひとつが、転倒です。
転んで頭を打つ。そのまま意識を失ったり、出血、嘔吐などの症状が見られたら大抵の場合、速やかに救急車を呼ぶか、タクシーなどで病院へ駆け込むでしょう。
しかし頭部を打った際、症状は必ずしもすぐに出るとは限りません。
「慢性硬膜下血腫」という病名を耳にしたことがありますか?
頭は一番外側に頭蓋骨があり、その内側に硬膜→くも膜→軟膜と髄膜が3重になって、脳を守っています。慢性硬膜下血腫というのは頭を打った後、硬膜と脳の間に血液がたまり、血腫ができる病気です。血腫はじわじわ大きくなり、次第に脳を圧迫。だいたい1~2カ月くらい(もっとかかる場合もあります)で、さまざまな症状が出てきます。具体的には〈表〉で挙げたような症状になります。
ところが、何らかの症状が出てきても、頭を打ってから時間が経っているため、転倒との関連を意識していない方も少なくない。
転倒があれば、数カ月後に慢性硬膜下血腫が起こるリスクをしっかり頭に入れ、異変が生じたらすぐに病院へ行くようにしてください。頭部CTやMRIで検査をし、状態によっては局所麻酔で脳の血腫を排除する手術を行います。
■慢性硬膜下血腫の典型的な症状
・頭が痛い
・ぼーっとする
・手足が動かしにくい
・言葉が出にくい
・舌がもつれる
・手足がしびれる
・物忘れがひどい
・けいれんが起こる
・尿失禁がある
高齢者では足腰が弱く、視力やバランス感覚が衰えているため、転倒しやすい。また、降圧薬や睡眠薬、認知症薬、精神安定剤など服用している薬によっても、転倒しやすくなります。そのため、慢性硬膜下血腫は高齢者によく見られます。
その場合、「ぼーっとする」「物忘れがひどい」といった症状から、認知症と誤診されることも……。高齢者で認知症を疑う症状が出てきた場合、過去数カ月の間に転倒したことがないか、しっかり確認する必要があります。慢性硬膜下血腫であれば、治療によって、認知症のような症状はなくなります。
頭を打つことは、認知症のリスク上昇にもつながりかねません。米国とデンマークの研究グループが、「外傷で脳に損傷を負ったことのある人は、ない人に比べて認知症になるリスクが高くなる」ことを示した大規模研究の結果を、2018年、医学雑誌「Lancet Psychiatry」で発表しています。
研究グループは、1995年1月1日時点でデンマークに住んでいたデンマーク人で、1999~2013年に50歳以上になった人をピックアップし、追跡調査をしました。対象は279万4852例で、平均追跡期間は9.89年。
解析の結果、外傷性脳損傷歴のある群は、そうでない群に比べて、認知症のリスクが24%増加し、アルツハイマー病のリスクが16%増加したとのことです。認知症のリスクは、外傷性脳損傷後の最初の6カ月間が最も高く、外傷性脳損傷の回数が増えるほど認知症のリスクが上昇しました。
また、20代で外傷性脳損傷を受けた人は受けなかった人に比べて30年後に認知症を発症するリスクが63%高く、30代で外傷性脳損傷を受けた人は受けなかった人に比べて30年後に認知症を発症するリスクは37%高いとの結果でした。
「頭を打った(ことがある)=認知症になる」わけではないものの、転倒を減らせるならそれに越したことはありません。転倒でひどく脳を損傷すれば、そのまま命を落とすリスクもあるのです。飲み会が増える季節、転ばない・転ばせない。これらをしっかり頭に入れておいていただきたい。
なお、「頭を打っても、たんこぶができたら大丈夫」という考え方があると聞いたのですが、これは全く根拠のないことですから、くれぐれも信用しませんよう、お願いします。