生活苦で広がる患者の服薬の間引き、治療の中断…「モーニングサージ」に気をつけろ

健康な人でも血圧は朝高く、夜低くなる
健康な人でも血圧は朝高く、夜低くなる

 生活苦が止まらない。厚労省発表の物価変動の影響を除いた9月の実質賃金は18カ月連続で前年を下回った。年金額も物価の上昇に合わせて来年は2年連続の増額の見通しだが、その一方で、保険料を支払う現役世代の減少や高齢化による「スライド制度」が発動され、実質の年金額は減少する見通しだ。そんななか、医療現場では生活苦から患者が勝手に薬の間引きをしたり、治療の中断、放棄する例が急増しており、冬場の脳梗塞、心筋梗塞など死に至る病気の急増が懸念されているという。しんクリニック(東京・蒲田)院長の辛浩基医師に話を聞いた。

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「先生、もっと安い薬に乗り換えたいのですがどうにかなりませんか?」

 最近、糖尿病で通院を始めたばかりの60代の男性患者からこんな相談を受けたという。この患者は自宅に冷蔵庫がなく、弁当や総菜、カップめんを買って食べる生活を続けている。塩分が多く、バランスを欠いた食事を続けているため、血圧や血糖が高く、腎機能も低下しタンパク尿も出ている。いまは薬でどうにかしのいでいるものの、数年先には透析の可能性があるという。

「この患者さんは食事指導をしても、それを実行できないため、薬の量を減らすことはできません。薬はすべてジェネリックで、腎臓の状態が悪いことから、これ以上、別の安い薬に入れ替えるのも難しい。本人は薬を間引いて飲んで薬を節約しているようですが、いずれ通院しなくなり、治療を中断するのでは、と心配しています」

 実はこの患者のように、生活苦から勝手に薬を飲まなくなったり、通院をやめて治療を中断する患者が急増しているという。

「いまは異常気象で暖かい日が続いているので目立ちませんが、この先、寒くなると貧困が理由で満足な医療を受けられない患者さんの救急搬送が増えて、亡くなる人が例年以上に増えてしまうのでは、と心配しています」

 実際、貧困が寿命に影響することは2015年の米国の平均寿命データでも明らかだ。

「この年、米国人の平均寿命が0.1歳短くなり話題になりました。原因は貧富の差の拡大とされ、平均寿命は収入上位1%は下位1%に比べて男性で14.6歳、女性で10.1年長かったことが報告されています」

 日本でも貧困は静かに広がっている。2022年国民生活基礎調査概況によると、日本ではその国の生活・文化水準を下回る状態を指す相対的貧困率が15.4%と高く、高齢者世帯の48.3%が「生活が苦しい」と答えている。

■浴室やトイレは暖かくする

 これからの季節、とくに注意したいのが高血圧の患者だ。気温が低下すると、血圧、血糖などが上昇し、具合の悪くなる人が多くなる。

「冬に血圧が上がるのは、寒さが血圧を調整する交感神経を刺激して血管を収縮させるからです。しかも、冬は鍋をはじめ塩分の多い料理が多く、体も動かさないから汗もかかず、肥満になりやすい。高血圧の人は、さらに病状が進みやすいのです。高血圧の人は夏と冬とでは血圧差が10~20㎜Hgある人が多く、30㎜Hg上昇する人もいるので要注意です」

 健康な人でも血圧は朝高く、夜低くなる。しかし、人によっては朝目覚めると急激に血圧が上昇する。これを「モーニングサージ」と呼ぶ。夜、晩酌の習慣がある人に生じやすいことが知られている。

「日本人2.1万人を対象とした研究では、日中の血圧が高い人は健常な人に比べて脳卒中や心筋梗塞のリスクが1.46倍高くなりますが、日中は正常で朝だけ血圧が高い人は2.47倍にそのリスクが跳ね上がると報告されています」

 実際、脳の血管が破れたり詰まったすることで起きる脳卒中は、高血圧、脂質異常症、糖尿病の人がなりやすく、午前6時~正午の間に発症しやすいことが知られている。

 では、自分がモーニングサージか否かを知るにはどうしたらいいのか?

「夜寝る前と朝起きてからすぐに血圧を測り、これを数日繰り返す。朝と夜の差が55㎜Hg以上あればモーニングサージです。該当する人はとくに、朝目覚めたらすぐに立ち上がらずに、布団の中で手足を動かして体を温めてから起きるようにしましょう。年配者の中には朝の冷気が気持ちがいい、と薄着で外出する人がいますが、それは加齢や糖尿病で温度が感じられないせいかもしれません。ゴミ出しなどで外出するときは暖かい服装にすることです」

 朝のイライラは血圧を上げる。余裕をもって行動できるよう、寝る前に朝の準備を整え、時間に余裕を持つことも大切だ。冷え切ったトイレでの排便は血圧を30~50㎜Hg上げることもある。とくに注意が必要だ。

「カーディガンを羽織ったりスリッパを履くなどして温かくしましょう。お風呂の脱衣所だけでなくトイレの中にも小型の電気ストーブを入れるのもいいかもしれません」

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