感染者数が昨年の2倍に急増中…「マイコプラズマ肺炎」にご用心

マイコプラズマ肺炎は重症化しやすいので注意したい
マイコプラズマ肺炎は重症化しやすいので注意したい

 これからの季節、注意したいのはインフルエンザだけではない。国立感染症研究所によると、先月6~12日に確認された「マイコプラズマ肺炎」の感染者数が昨年と比較して2倍以上だと報告されている。「呼吸ケアクリニック東京」理事長の木田厚瑞氏に聞いた。

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 マイコプラズマ肺炎とは、「肺炎マイコプラズマ」と呼ばれる通常の肺炎を起こす細菌とは性質が異なる細菌に感染して起こる呼吸器感染症。すでに感染している人の咳からの飛沫感染など接触により感染する。発熱、全身倦怠感をはじめ、頭痛や咽頭痛、咳や鼻水、耳の痛み(中耳炎)、筋肉痛、関節痛といった風邪に似た症状が現れる。死亡者は少ないが、肺炎を起こすと重症化しやすいので注意したい。

「通常、晩秋~春にかけて流行がピークに達しますが、今年は8月から徐々に患者数が増え、現在は1週間に数人の方がマイコプラズマ肺炎と診断されています。マイコプラズマに一度感染すると血液中に抗体ができて4年ほど体内で維持されますが、コロナ禍でマイコプラズマに感染せず、抗体が失われた可能性や、肺炎を起こすタイプは4型があるので通常とは異なる種類が流行している可能性もあります」

 マイコプラズマの特徴はなんといっても潜伏期間の長さだ。インフルエンザの場合、ウイルスが体内に侵入してから1~3日後に症状が現れるのに対して、マイコプラズマは感染後2~3週間潜伏する。また、マイコプラズマに感染しても無症状(不顕性感染)のケースがよくみられ、場合によっては7週間、無症状の状態で保菌している人が少なくないという。

「マイコプラズマ肺炎は6~12歳の小児に発症しやすく、幼稚園や学校など、集団生活を送る中で感染します。高齢者では少ないといわれていますが、それでも時々診察します。当院を受診される方は大人で、問診で話を伺うと2~3週間前に子供が風邪をひいていたと話されます。感染経路の特定が難しい上に家庭内で感染者が1人いた場合の感染しやすさは90%といわれているので要注意です。小児ではRSウイルスなどのウイルス性感染症も多いことが紛らわしい理由です」

■インフルとの同時感染は重症化しやすい

 マイコプラズマかどうか確認するには、まずはコロナやインフルエンザが陰性であることを確認し、問診で最近、周囲にマイコプラズマの感染者と接触していないか聞き取りを行う。

 また、マイコプラズマ肺炎は肝障害を起こしやすいことから、ALTやASTの値を血液検査でチェックするという。確定診断には、マイコプラズマは赤血球にくっつく作用があるため、判断材料のひとつとして赤血球の凝集の有無を確認する寒冷凝集反応の数値をチェックしたり、初期と治ったあとの血液中の抗体価を比較する。

「発熱時(急性期)と症状が治まった2週間後(回復期)に採血で抗体検査を行い、比較して4倍以上の上昇が見られることが条件です。成人の場合、気道の炎症によって分泌物が増え、小児に比べて乾咳から痰が絡む咳になりやすい喘息によく似た症状が長く続くことがあるため治療が必要です」

 治療薬の選択も重要だという。マイコプラズマには一般の細菌性肺炎に効果が高いペニシリンやセフェム系抗生物質が効かず、テトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系の3種類が有効とされている。

「ただ、小児の場合、マクロライド系は聴覚障害のリスクがあり、マクロライド系の中で有名なクラリスロマイシンは、日本人では子供から成人までの50~93%が肺炎マイコプラズマに対して耐性を示すと報告されています。さらにテトラサイクリン系も小児では歯が黄色くなる副作用が知られているので、リスクを回避するためにもマクロライド系のジスロマックやニューキノロン系をなるべく処方しています」

 とりわけ、これからの季節に気を付けたいのが、マイコプラズマとインフルエンザの同時感染だ。症状が重症化しやすいほか、診断に時間がかかって適切な治療を受けられない可能性が高い。

「マイコプラズマ肺炎のワクチンはありません。せっけんでの手洗い、うがい、マスク着用が予防の基本です」

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