12月に入って、友人のB君から電話があり、こんな相談を受けました。
「知人の36歳になる息子さんが、検診で肺がんと診断されて、しかもリンパ節転移があるらしい。A病院を受診して、検査を行った後、病院の検討会で手術は年明けになると言われたようだ。咳などの症状は何もない。でも心配で、早く手術をしたいとのことだ。知り合いの病院で、年内に手術できるところはないだろうか?」
私はこう答えました。
「今の時期はお正月が近いから、手術が年明けになるのは仕方がないと思う。緊急を要する場合であれば別だけれど、どこの病院も年内のがん患者の手術予定は、おそらくもう決まっているだろう。無理に急がないで、また病院側にも病状をきちんと把握してもらって、しっかり準備をお願いしたほうがいいと思う」
それから、こんなやりとりを続けました。
「でも、本人は早くしたいと焦っているみたいなんだ」
「患者さんにしてみれば、年内に手術を終えて新しい年を迎えたい気持ちはよく分かる。ただ、その息子さんが手術を急がなければならない理由は他に何かあるのかな? すでに予定されている患者さんの手術を遅らせて、割り込んで、息子さんの手術を早めるようなことはできないと思う。
資料を持ってセカンドオピニオンとしてほかの病院を受診して、心配なこと、そして年内に手術可能かどうかを聞いてみるのもひとつの方法だろう。その時はA病院では『年明けになる』と言われたことも正直に話す。それが、息子さんにとっても納得できていいのではないか。
多くの病院では、手術予定が、たとえば月曜日は上部消化器外科、婦人科、火曜日は整形外科、大腸外科、水曜日は泌尿器科、乳腺外科……といった具合に決まっている。そこに正月が挟まってくると、どうしても1、2週間は空くわけで、ある患者を無理やり早く割り込ませるわけにはいかないと思う。緊急性がある場合は万難を排して手術を早めるはずだが、患者の希望というだけの理由で、無理やり早くすることはできないだろう。がんの場合で、手術が1、2週間遅くなっても、後々に影響することはないと思う」
B君は「そうだよね。分かった。友人に話してみる」と口にして、電話は終わりました。
肺がんなどの固形がんでは、もしどうしても手術が遅くなる場合は、手術前に薬物治療や放射線治療を検討する場合もあり得ます。患者の一般状態、がんの病期、組織の状態などから、治療法を決めるのが一般的です。
■年末に白血病患者が紹介されてきたことを思い出す
私が現役の頃、スタッフが足りないのか、年末になって大学病院から急性白血病患者が紹介されてきたことを思い出します。病状から判断すると、治療開始を正月明けまで待つことはできません。正月中に白血球数がほとんどゼロとなれば、深刻です。発熱、口内出血など一般状態の確認、データの確認、輸血のオーダー等々……やることは山ほどあって大変でした。
毎日、病状は変わります。担当するスタッフは、年末年始だろうが毎日の出勤を余儀なくされます。それでも治療が効いて、寛解に入ってやっと緊張が解け、患者さんにも、担当医にも本当の正月がやってきました。
正月の間、入院していなければならない患者さんもたくさんおられます。もちろん、担当医ではなくとも、当番の医師が出勤します。
医療は、医師が中心とはいえ、たくさんのスタッフで成り立っています。患者さんに、「正月といっても、何かあればいつでも駆け付けますよ」と声をかけてくれていた医師を思い出します。患者さんの心の安心も大切です。
患者さんのための医療ですが、最近は、医療者の「働き方改革」という言葉を耳にします。しかし、現状のスタッフ、医師数では、医師の超過勤務時間を「自己研鑽の時間」と言い換えられてしまうのではないかと危惧しています。