世界中のどの言語にも、「ウチのことば」と「ソトのことば」の区別があります。
「ウチのことば」は、内輪のことば、つまり仲間同士の言葉です。日本で「タメ口」と呼ばれるものや、方言などは分かりやすい「ウチのことば」です。
対して、「ソトのことば」は、知らない人と話したり、公の場で話したりする際に使う言葉です。日本語では、多くの場合、敬語が「ソトのことば」の役割を果たします。知らない人は、自分の心の中にあるなわばりの外側にいる人です。相手からしても、話し手は自分のなわばりの外にいる人。お互いに相手のなわばりに入り込まないように気を配るため、おのずと敬語を使うようになるわけですね。
「ウチのことば」と「ソトのことば」を効果的に切り替えると、ぐっと相手との距離は縮められます。たとえば、少し昔の話になりますが、元お笑い芸人の東国原英夫氏が、宮崎県知事選の演説の中で、「どげんかせんといかん」と、宮崎の方言を使ったことで県民の心をつかんだという有名な話があります。これも、「ウチのことば」と「ソトのことば」を巧みに利用した話術と言えます。
選挙演説は、「ソトのことば」である標準語で話すことが一般的。しかし、突然、宮崎県民にとって「ウチのことば」である宮崎弁を差し挟む。ウチ側の人間として宮崎県民のみなさんと一緒にやっていくという雰囲気をつくり出すことに成功しました。また、「ウチのことば」は、素の自分をさらけ出すということにもつながりますから、同じ属性の人から共感を抱かれやすくなります。
言葉の切り替えで、聞き手の注意をひきつけるという特徴もあります。次の例を見てください。
A「暑いですね。汗が止まりませんね」
B「本当に暑いですよね。ビールが飲みたいですね」
A「いいですね。これが終わったら、どこか飲みに行きましょうか。おっと、そろそろ時間ですね。今回はお招きいただきありがとうございます。プレゼンテーションを開始いたします。今回のわが社の提案は……」
お得意さんとのビジネスシーンで、プレゼン前までは社交的な口調で話していたのに、重要な場面になると、急にきっちりとした口調で話し始めるということがあると思います。
この例で言うと、2回目のAの発言のときに切り替えが起こっています。このときBは、「これから重要な話に入る」ということを、よく理解しているはずです。人間は切り替えに注目しますから、あえて切り替えを入れることで、話題の重要性や話し手の真剣さを、より効果的に伝えることができるのです。
同じ敬語を使っていても、言葉を変えるかわりに、フォーマル(形式的)とインフォーマル(非形式的)な内容の切り替えも有効です。仕事のメールで、ひとしきり形式的に用件を伝えたあと、最後に「最近、うまい刺し身の店を見つけました。近いうちに一緒に行きましょう」と一言添えるだけで、印象はガラッと変わります。相手の心を引きつけたいなら、切り替えを上手に活用しましょう。
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