感染症別 正しいクスリの使い方

【クロストリジオイデス・ディフィシル感染症】抗菌薬で腸内細菌が殺菌されることで発症

抗菌薬の投与により耐性を持つ細菌が増殖
抗菌薬の投与により耐性を持つ細菌が増殖

 抗菌薬を服用した際、副作用として下痢や軟便を伴うことがあります。「抗菌薬関連下痢症」と呼ばれるもので、その原因菌の代表とされるのがディフィシル菌です。抗菌薬の投与によって腸内細菌が殺菌されると、多くの抗菌薬に対し耐性を持つディフィシル菌が増殖してしまうのです。

 ディフィシル菌は、健常成人の5~10%、新生児の15~70%に無症候性保菌がみられ、環境中(土壌、水、家庭のペット)にもよくみられます。保菌者に抗菌薬が投与され、腸内の常在細菌叢(そう)が乱れることで発症する内因性発症と、施設内で発症患者から直接または医療従事者を介して伝播(でんぱ)し発症する外因性発症が知られています。

 内因性のクロストリジオイデス・ディフィシル感染症は、すべての抗菌薬が原因となりうるほか、抗がん剤や制酸剤の服用、免疫抑制状態もリスクとなります。最近はキノロン系抗菌薬の乱用によっても起こっているとの報告もあります。

 臨床症状は多彩です。軽度の下痢症から偽膜性腸炎、腸閉塞、さらには、重症化して中毒性巨大結腸症、消化管穿孔(せんこう)などを起こし、ショックや死に至るケースもあります。

 ディフィシル菌による下痢症や腸炎の治療では、まず誘因となった抗菌薬の投与を中止し、改善が認められない場合や症状が重篤な場合は、メトロニダゾールやバンコマイシンといった抗菌薬の投与が行われます。バンコマイシンは苦く服用しづらいという患者さんも多いことから、バンコマイシンを単シロップなどで溶解して飲みやすくする処置もよく行います。

 ディフィシル菌がやっかいなのは、再発を繰り返しやすいところです。また、乾燥や熱に強く、環境中で長時間生息すると同時に、多くの消毒薬(アルコールも含む)に抵抗性を持っています。そのため、病院や介護施設などにおいて、発症患者から伝播した集団発生(院内感染)も多く報告されています。

 オムツ交換も伝播の原因になりえるので、使用した手袋やエプロンは感染性廃棄物処理を徹底する。排泄物が付着したリネン類は速やかに交換する……などといった対策が必要です。また、アルコールによる手指消毒薬は効果が期待できないため、せっけんと流水による手指衛生を徹底することも大切です。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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