長引くまぶたのピクピクは「顔面痙攣」の危険あり…生活に支障が出るケースも

長引くまぶたのピクピクは危険
長引くまぶたのピクピクは危険

 まぶたがピクピクする--。眼精疲労や睡眠不足をきっかけにまぶたが痙攣する眼瞼ミオキミアの経験がある人は少なくないだろう。ほとんどは数日で治まるが、まぶたのピクピクが長引く場合、他の病気が潜んでいる可能性が高く注意が必要だという。関東脳神経外科病院理事長で院長の清水暢裕氏に聞いた。

 40代後半の男性は、7年前から左まぶたの痙攣を自覚していたものの、疲労がたまった際に起こる一過性の眼瞼ミオキミアだと思い込み放置していた。しかし、時間が経つにつれて痙攣は次第に口の周辺まで広がり、異変を感じ近所の脳神経外科を受診。MRIの画像から、「顔面痙攣」と診断された。

 顔面痙攣は、顔の表情をつくる筋肉が自分の意思と関係なく弛緩と収縮を繰り返す病気のこと。一般的に症状は片側に見られ、多くは下まぶたのピクピクから始まって、進行するとまぶたが閉じたり、頬や口が引っ張られ顔の表情が歪むのが特徴だ。

「顔の筋肉は顔面神経により指令を受け動かされています。それが何らかの原因で顔面神経が脳幹から出た場所で血管に圧迫されると、神経に異常な刺激が加わり筋肉が勝手に動いてしまうのです。患者さんは40代以降の方が多く、加齢に伴う動脈硬化の進行やそれに伴う血管の蛇行が関係していると考えています」

■手術で根治できる

 顔面痙攣は放置しても命に関わる病気ではない。ただ、顔面の痙攣や表情の歪みから精神的ストレスが生じるケースも少なくないという。また片目が閉じると、運転や仕事など日常生活に支障を来す恐れがある。関東脳神経外科病院では患者の状況や希望に沿った治療方針を立てているという。

「痙攣は、緊張した際に出やすい特徴があるので、脳の興奮を抑えリラックスさせる働きを持つクロナゼパム(リボトリール)を処方しています。ただ、服薬治療は効果が限定的であり、顔面痙攣の進行は止められない。筋肉の収縮を抑えるボトックス注射も行いますが、根治するには手術が必要です」

 関東脳神経外科病院で行われているのが「神経血管減圧術」だ。耳の後ろを5センチほど切開し、頭蓋骨を500円玉サイズに丸く削り抜く。そこから、手術用顕微鏡を用いて頭蓋骨とその下にある小脳の隙間を広げ、顔面神経を圧迫している血管を剥離して移動させ、固定して減圧させる方法だ。手術は全身麻酔下で行われ、所要時間は1時間半程度だという。

「当院では年間約20件の顔面痙攣の手術を行っていて、9割以上の方は痙攣の症状が完全に消失しています。しかし、顔面神経と聴神経は並走しているので、万が一、手術時に神経に負担がかかったり傷つけると術後に聴覚障害を引き起こすリスクがある。聴神経は非常に弱い神経であるため、手術を行う際は細心の注意を払う必要があります」

 前出の40代後半の男性は、当初は服薬治療を受けていたが、十分な効果を得られず手術を決意。神経血管減圧術を受けた翌日には顔面痙攣は完全に消失し、7年間続いた症状から解放された。術後のMRIでも神経の減圧が確認され、聴力も術前と同様に障害はなく、手術から1年経った現在も再発することなく過ごしている。

 一方で、痙攣の症状が完全に治まるまでに時間を要するケースがまれにあるという。

「手術直後に症状が消失する方もいます。しかし、術後にいったん症状が消失しても再び痙攣が出現し、その後徐々に改善していく場合もめずらしくありません。通常は1カ月程度で改善していきますが、それよりも長く痙攣が気になるようであれば、ボトックス注射を併用するのも有効です」

 まぶたのピクピクを一過性のものと甘く考えず、1カ月以上続いたら顔面痙攣も疑いたい。

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