モニターを見るだけで認知症かどうかわかる 新検査システムが保険適用に

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 モニターを見るだけで認知症かどうかを診断できる認知症検査システムのアプリ「ミレボ」が注目を集めている。開発に関わった大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学の武田朱公准教授が、日本抗加齢医学会主催のセミナーで講演を行った。

 ◇  ◇  ◇

「ミレボ」は、日本で初めて薬事承認を受けた認知機能を評価する検査プログラム。早ければ春から全国の医療機関で、健康保険適用で受けられるようになる。

「従来の認知症スクリーニング検査が抱える課題を解決したものになります」(武田准教授=以下同)

 物忘れなどで認知症を疑い、病院を受診した場合、最初に行われるのが認知症のスクリーニング検査だ。認知機能が低下しているかどうか、低下の度合いはどれくらいか、を調べる。

 一般的に用いられるのは、国内外の認知症のガイドラインで推奨されているMMSEや、日本で開発された長谷川式認知機能検査。MMSEでは、「今年は何年ですか」「ここは何県ですか」「100から順に7を引いてください」「(時計を見せながら)これは何ですか」といった全11問の質問を、医師が被験者に投げかける。全て回答するまで15~20分ほどかかる。

「健常者には簡単な質問でも、認知症ではそうではありません。MMSEにしろ長谷川式にしろ、認知症スクリーニング検査は被験者にとって緊張、焦り、落胆、怒りなど心理的ストレスが大きいことが課題となっていました。また、認知症スクリーニング検査は専門知識を持ったスタッフが対応せねばならないのですが、混み合った認知症外来で人員の確保が大変。さらに、採点にばらつきが出る問題があること、難聴の方への対応など、検査を行う側にも課題があった」

 患者の心理的負担の軽減、医療者の負担軽減、検査者が代わっても結果が変動しづらい客観性。この3つを備えた検査法を作れないか--。試行錯誤の末できたのが、「ミレボ」なのだ。

■3分で完了

 この検査法はこうだ。被験者は、「ミレボ」をインストールしたiPadなどタブレット端末の前に座る。タブレット端末には被験者の目の動きを正確に捉えるカメラが搭載されている。タブレット端末には認知機能を評価する画像や映像が映し出される。

 例えば、ある図形が映し出される→「前に覚えた図形と同じ図形はどれですか? じっと見つめてください」という文字が映し出される→いくつかの図形が映し出される→被験者は、この中から同じ図形を見つけ出し、それを見る。

 健常者の場合、いくつかの図形の中から似ている部分、似ていない部分を見つめ、同じ図形を選び出し、注視する。しかし認知機能が低下している人では、似ている部分、似ていない部分を見つけられず、視線がランダムに画面上をさまよう。

「タブレット端末のカメラで、目の形態を画像処理で分析し、視線の向きを調べる。このアイトラッキングで出たデータを計測、定量化することで認知機能をスコア化するのです」

 検査時間は約3分と非常に短い。“見るだけ”なので、被験者が「質問の答えがわからない」などと恥ずかしい思いをしなくて済む。タブレット端末のチップが瞬時にスコア化するので、専門スタッフを確保する必要はなく、検査をする側の知識や経験に依存せず、客観的に評価できる。

 さらに、従来の検査にはない大きな特徴がある。MMSEも長谷川式も30点満点のテストで、1つの質問につき正解か不正解しかなく、30点満点の評価しかできないが、「ミレボ」は、連続的に視線の動きを追う。見ている場所、見ている時間、見る順番など得られる情報が多く、より高精度の評価ができるのだ。

「ミレボは、診断アプリではなく評価アプリ。被験者のその時々の認知機能を評価できます。最初の診断時だけでなく、治療開始後も認知機能のモニタリングに使えます」

 認知症は、早期に対策を講じることで認知機能低下を遅らせられる。ミレボで簡便に、かつ迅速に診断ができるようになる意味は大きい。

関連記事