Dr.中川 がんサバイバーの知恵

経済評論家・山崎元さん永眠…食道がんは手術するなら化学放射線療法の後がいい

分かりやすい経済解説で人気だった(22年6月撮影)/
分かりやすい経済解説で人気だった(22年6月撮影)/(C)日刊ゲンダイ

 経済評論家の山崎元さんの命を奪ったのは、食道がんでした。元日に65歳の人生に幕を下ろしたといいます。私は投資をしませんが、山崎さんの金融コラムは楽しく拝読していただけに残念でなりません。

 そのコラムなどでがんのことも公表していて、2022年7月にのどの違和感をキッカケに受診を重ねた結果、ステージ3の食道がんが判明。抗がん剤治療を受けてから、手術で切除したそうですが、診断から1年半ほどでよくない転帰となってしまったようです。

 亡くなる直前まで仕事をされていた姿は、とても痩せていました。どんながんであれ、進行すると痩せることがありますが、病気そのものの影響だけではなく、手術の影響もあると思います。

 食道がんの手術は、外科手術の中でも特に大がかりで、食道のほとんどと胃の一部を切除して、さらにリンパ節を含む周辺組織も切除します。その上で胃を持ち上げ、食道の残った部分とつなげて食道の代用とするのです。

 この手術の後遺症で、胃がんで胃を全摘するケースと同じように食事量が減り、痩せます。山崎さんも術後3カ月ほどのコラムで、食事量が3分の1になったと記していました。

 日本では、抗がん剤→手術の流れが普及していますが、欧米では放射線と抗がん剤を同時に行う化学放射線療法が一般的です。もし欧米で手術をするとしても、まず化学放射線療法を受けてからになります。

 なぜか? 化学放射線療法は、食道も胃も温存できて、治療成績も優れています。ステージ1は手術と同等、ステージ2、3でも手術に近い成績です。

 検査をしてもがんが分からなくなった状態は、完全奏効(CR)といいます。手術をする場合でも、初期治療で化学放射線療法を選択し、CRが得られると、経過観察で手術のタイミングを探ることができますから、根治的化学放射線療法になりうるのです。

 胃や腸などの臓器の表面は漿膜で覆われていますが、食道には漿膜がないため、食道にがんができると、早期にリンパ節や大動脈周辺などに転移しやすい。厄介ながんなのはそれも一因ですが、化学放射線療法ならステージ4aまで根治が期待できます。

 山崎さんと同じくらいの時期にステージ3の食道がんが判明した女優の秋野暢子さん(66)は、化学放射線療法で治療され、仕事に復帰されています。胃も食道も残っているので、今は痩せた印象もありません。

 食道がんのリスクは、飲酒と喫煙です。たばこは吸いませんが、酒飲みの私は人ごとではありません。飲酒後の口の中は、発がん物質のアセトアルデヒドの血中濃度が10倍に上昇するという報告もありますから、お酒はほどほどにして、歯磨きを心掛けています。

 山崎さんのご冥福をお祈りします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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