がんと向き合い生きていく

被災地でがん治療を受けている患者に必要な対策はいくつもある

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 能登半島地震の災害で、亡くなられた方、負傷された方、たくさんの被災された方に心からお見舞い申し上げます。

「地震に備える」とは、まず身の安全、火災予防、避難場所の確認等々が考えられますが、東日本大震災、熊本地震の時の教訓が生きるようにしていただきたいと思います。

 道路や交通機関の破綻で、病院まで行けない、薬物や医療機器の供給中断など、それぞれの患者さんの状況もさまざまで、大変なことと思います。また医療機関も、被災された方々の診療や治療で不眠不休ではないでしょうか。

 自然災害が発生した際、中にはがん治療中の患者さんもおられるでしょう。がん治療やがん薬物療法に対する影響も並のことではないと思います。せんえつながら、自然災害ががん治療に及ぼす可能性のある影響や対策について考えてみました。

 災害が起こった際、政府は「医師が処方した薬の提供は、診察ができなくても、安定した慢性疾患の場合は医師と薬剤師の連絡で提供できるようにした」と聞きました。

 患者は診察を受ける時は、診療記録がない場合も想定し、自分の病気について巡回してくる医師や看護師に説明しなければなりません。がんであれば、がんの種類、その病期、治療を受けていた病院名、担当医名、これまで受けた治療(手術、放射線治療、薬物療法など)などです。

 処方されている薬剤についてはお薬手帳を持参しておくことが大切です。点滴薬はお薬手帳には記載されていないので、点滴薬の名前や量など普段から自分の手帳に記載しておくと、本人も医療者も助かります。がんの薬物療法では、自分に起こった副作用についても、思い出すのではなく記録しておくのが賢明です。さらに、がん以外の病気、いわゆる持病(糖尿病や高血圧など)についても知らせる必要があります。

■投薬スケジュールを把握しておく

 また、がんの薬物療法を外来で受けているとすれば、そのスケジュールを把握しておくことも大切です。

 たとえば、週1回を3週続けて1週休み、といったような決まったスケジュールに沿って行われていると思いますが、災害が起こったら、その時の状況で変更せざるを得ないこともあるでしょう。注射が内服薬に替わることもあり得ます。

 注射などの薬物療法を受けているとすれば、最近受けたのはいつか? その情報が重要です。一般的に白血球数は治療から14日後が最低値になります。高熱、肺炎が起こったら入院することも必要になるかもしれません。抗がん剤治療中は、直後であれば免疫力の低下で感染症にかかりやすいのです。可能であれば定期的に、肺炎球菌、インフルエンザ、新型コロナなどのワクチン接種を行っておいた方が良いと思います。

 長く避難所で過ごさなければならない場合もあるでしょうから、感染症には気をつけなければなりません。私たちはこの3年間、新型コロナの流行で、こまめな手洗い、身体的距離の確保、必要時のマスク着用、換気といった対策を学びました。手洗いと消毒が大切ですが、水の供給が少ない場合が心配です。

 集団生活では、下痢や嘔吐があった場合はノロウイルス感染も心配です。ノロウイルスはアッという間に広がります。患者さんが嘔吐し、汚れた絨毯からでも広がります。がんと違って、感染症は急速に健康な人にも広がります。感染症の専門医が現場を把握し、指導していただくのが大切だと思います。

 繰り返しになりますが、感染症予防は手洗いが基本です。手指衛生、できればソーシャルディスタンスを保つ、そしてマスク着用です。冬は寒いので体の保温も大切ですが、換気も必要です。

 大変でしょうが、助かった命を守り続けていただきたいと思います。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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