日本版「足病医」が足のトラブル解決

最近、足の感覚が鈍いのですが糖尿病の合併症でしょうか?

糖尿病患者の10%の人に足病変が
糖尿病患者の10%の人に足病変が

 世界では30秒に1本のペースで足が切断されているのをご存じでしょうか。その多くは「糖尿病性足病変」によるものです。現在、日本には2000万人の糖尿病患者がいるとされ、そのうち10%の人に足病変が生じるといわれています。

 これは足に生じるトラブルの総称で、進行すると足の潰瘍・壊疽が起こり最悪のケースでは足の切断に至ります。

 足潰瘍の主な原因は3つあり、1つは動脈硬化です。糖尿病で高血糖の状態が続くと動脈硬化(閉塞性動脈硬化症)が起こり、血管が細くなって血の巡りが悪くなる虚血が生じると、足に十分な酸素や栄養が行き渡らず腐っていきます。

 2つ目は免疫力の低下が挙げられます。高血糖自体が免疫を担う白血球の働きを悪くさせるので、病原体と戦えず細菌に感染しやすくなるのです。

 3つ目は、糖尿病による神経障害で知覚が低下すると足にケガをしても痛みを感じられず、そのまま放置しているうちに壊疽に至ってしまう。実際、当院を受診される糖尿病性足病変の患者さんは、爪白癬や足白癬、巻き爪、むくみ、外反母趾やそれに伴うタコなど、目で見て分かる足の異常から、足の異変に気付く方がほとんどです。

 ある患者さんは、大きい釘が刺さっていると来院しましたが、釘の胴部と先端部が足の裏に完全に埋まっていたため、なんと1カ月間も刺さっていることに気付かなかったと言います。それくらい感覚がなくなるのです。

 また、神経は筋肉の発達を担っていますが神経障害があると筋肉にうまく刺激が伝わらず筋肉が萎縮し、正常な足の形が保たれなくなって変形していきます。そのため、さまざまな足の変形になってタコができたり、変形した足で靴を履くとすぐに靴ずれを起こしてそこから感染が起こっても免疫力の低下から傷はなかなか治りにくく壊疽に至るといった悪循環が生じるのです。

 50代後半の女性は、「ある日突然巻き爪ができて、足の指も腫れている」と他院の皮膚科を受診しました。指の腫れは、巻き爪により爪が皮膚に食い込んで傷になり、そこから細菌に感染したのが原因です。ただ、爪の真下には骨があるので、爪の付近から感染が起こると菌は一気に骨まで到達し、細胞や組織が壊死するリスクが高い。受診先で1週間後に足の指だけでなく膝下からの切断が必要と告げられ、セカンドオピニオンとして当院の足の疾患センターを受診されました。

 初診で足の状態をアセスメントしたところ、足の治療が全く行われていない上に、切断が必要なほど骨に感染も広がっていない。外来で、他の組織を残しつつ感染している部分だけを削り、「免荷」と呼ばれる歩行を維持しながら患部に負荷がかからない装具の着用だけで3カ月後には完治し、切断の回避はもちろん、現在は仕事にも復帰されています。

 血流障害により下肢を切断した患者さんの5年後の死亡率は約70%以上と報告されています。神経障害や免疫力の低下は血糖コントロールや服薬治療である程度補えますが、血流障害によって一度壊死した組織を蘇らせる治療は既存法では限界があります。

 また、健康な人が交通事故で足を切断しても、義足を履いてリハビリを行えます。しかし、切断に至る糖尿病の患者さんは、全身状態が悪いことが多いので、特に高齢者の場合はリハビリが難しい。

 糖尿病の患者さんは、血糖値を下げるためにも歩行や運動を指導していますが、歩けなくなると糖尿病そのものが悪化する可能性が高いです。切断を防ぐには、日頃のフットケアが最も大切です。

田中里佳

田中里佳

2002年東海大学医学部卒業、04年同大学形成外科入局、06年米国ニューヨーク大学形成外科学教室留学、12年順天堂大学医学部形成外科学講座准教授、医局長を経て現職を務める。

関連記事