「思春期突発性側弯症」は学級に1人はいる珍しくない病気…学校健診「原則着衣」では見逃される

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 1月22日、文部科学省が学校での健康診断について「原則着衣」とする見解を通知。それに対し日本医師会は「服を着ていても診てもらえる」という誤解を招きかねないと指摘している。健診時の児童生徒らのプライバシーや心情は配慮しなければならないが、一方で着衣だと見逃してしまう病気がある。そのひとつが、思春期に発症する「思春期特発性側弯症」だ。1クラスに1人はいるほどの患者数で決して珍しい病気ではない。

 思春期特発性側弯症の「側弯症」とは脊椎(背骨)がねじれて曲がる病気のこと。「特発性」は原因不明という意味。

 この病気の患者を多く診る福島県立医科大学会津医療センター整形外科・脊椎外科学講座の白土修教授が言う。

「側弯症は先天性や症候性などいくつかタイプがあります。しかし、全側弯症の80%は原因がわからない特発性側弯症。その80~90%は10歳ごろから、骨の成長が完了する20歳ごろまでに発症する思春期特発性側弯症。さらにそのうち80~90%、私の臨床上の経験では95%以上が女児です」

 10~20歳ごろ、つまり成長期であれば、いつでも発症する。原因不明なので、だれでも発症する可能性がある。だからこの間は背骨が正常なカーブであるかをチェックする必要がある。それゆえに、1979年度に側弯症学校検診が導入され、2016年度からは運動器学校検診が開始。しかし、今年は異常なしだったからといって、来年もそうとは限らない。頻繁なチェックは家庭でしかできない。

「側弯症かどうかは裸になってもらい脊椎をチェックするのが基本です。しかし、思春期の女児に対して、それは学校検診では不可能。また、学校医は内科医が主に担っており、側弯症の診断に慣れていない。側弯症は無症状で、たとえ腰痛や背部痛があっても、それが側弯症によるものとは限らない。さまざまな理由で、特に早期は見逃されやすい」(白土修教授)

■2つの方法で確認

 日々子供を見ている中で、肩の高さ、肩甲骨の高さ・突出の左右差が気にならないか。次の方法で時々チェックするとよりいい。

①上半身裸かブラジャーだけで両腕を自然に垂らし、膝を伸ばしたまま、背中を丸めながらゆっくりとおじぎをする。おじぎをするに従い、肩周辺、背中、腰部の順に左右の高さに差があるかどうかを、前か後ろから確認する。

②まっすぐに立った状態で、背後から見て、ウエストライン、肩の高さ、肩甲骨の高さと突出の程度に左右差がないかを確認する。

 もしかして、と思ったら、整形外科の中でも脊椎外科専門または側弯症専門を掲げている医師の受診を。

 前述のように思春期特発性側弯症は、思春期(成長期)に発症する病気のため、個人差はあるものの、発症後、骨の成長に従い、側弯(カーブ=Cobb角)の程度が進行していく。

 側弯がごく軽いうちは定期的なX線検査と経過観察。Cobb角が20~40度になると、側弯の進行を止めるための装具を、骨の成長期が止まるまで装着する。欧州では運動療法が試みられているが、エビデンスの有無は論争中だ。マッサージや整体、カイロプラクティック、鍼灸は「効果がある」とのエビデンスはない。Cobb角が40度あるいは45度以上になると、側弯を矯正し、進行を防止できる唯一の方法は手術となる。

「思春期側弯症では、側弯の程度が軽いうちに発見し、側弯の進行をできる限り抑制したい。たとえば15歳で発症したとすると、骨の成長が止まる20歳ごろまで5年あるのです。この間、いかに側弯が進行しないようにするか。成長完了時、側弯の程度が大きいと、見た目の問題のほか、今後の腰痛、座骨神経痛、日常生活障害、呼吸器障害などが生じる可能性があります」(白土修教授)

 だからこそ、普段の生活や入浴時など、家庭でのこまめな注意が早期発見の上で重要となってくるのだ。

 しかし現状では、学校検診で指摘され、病院を受診した時には装具で側弯を抑制できる時期を過ぎており、治療の選択肢は手術しかない、というケースも少なくない。

 思春期の子供を持つ親は、神経質になりすぎることはないものの、「何かおかしい」を見逃さないようにしたい。

■新装具を開発

 側弯進行を止める装具に関し、白土教授は整形外科向け医療用サポーターの製造でトップメーカーの「日本シグマックス」と共同研究で患者の身体的・心理的負担の少ないものを開発。臨床現場で用いられている。なぜ開発に至ったのか? それは装具の装着時間が長いほど側弯の進行を抑えられる(治療の成功率が高い)が、従来の装具では身体的・精神的負担が大きく、治療のドロップアウトにつながりやすかったからだ。

「装具を1日13時間以上装着することで治療成功率90%という研究報告もあります。しかし従来の装具では、締め付けが苦しい、蒸れる、体育座りができない、睡眠が浅くなるなどの身体的負担に加え、かさばって目立つため、学校で友人に指摘されていじめの原因になったり、洋服が限られおしゃれができないといった思春期ゆえの精神的負担が大きかった。装具を装着しなくなり、側弯が進行し、手術となる患者さんもいました」(白土教授)

 新たな装具は腰椎タイプと胸椎タイプがあり、「軽量」「目立たない」「着脱しやすい」を兼ね備えている。白土教授が所属する会津医療センターを含む7施設で2019~23年に多施設共同研究を施行。装着時間は先行研究より長く高いコンプライアンスが確認され、初期矯正率は目標値と同等だった。

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