日本版「足病医」が足のトラブル解決

糖尿病患者はどんな靴を履くのがいいのでしょうか?

素足で履かないほうが良い(C)iStock
素足で履かないほうが良い(C)iStock

「糖尿病性足病変」の患者さんは、神経障害や血流障害、免疫力の低下から足が壊疽(えそ)しやすい状態にあるので、とにかく「フットケア」が大事だと前回お話ししました。2000年に欧州糖尿病学会の公式ジャーナルで発表された論文には、チーム医療によるフットケアで下肢切断を約75%低下させると報告されています。ただ、足の健康を守るには医療従事者だけでなく、日頃からの患者さんご自身による努力が必要不可欠です。

 ここからは、実際に外来で指導しているフットケアの方法を紹介します。

 一般的な人であれば、靴擦れすると痛みから歩くのをやめますが、神経障害があると痛みを感じないので、そのまま歩き続けてしまいます。ちょっとした傷から感染が広がって足の切断に至る方が少なくありません。ですから、糖尿病の方にとっての靴選びや正しい履き方が重要なのです。

 靴は基本的に、靴ひもやマジックテープで足の位置を固定できるようなタイプを選び、長時間歩く際はスニーカーが望ましいといえます。かかとが丈夫でフィットしているか、つま先が靴の先端に接触せず1センチ程度のゆとりがあるか確認しましょう。その際に靴底が薄すぎたり硬すぎず、足の指が曲がる位置で靴底も一緒に曲がるかどうかが大切です。軽量の靴は強度が弱く衝撃を受けやすいので避けてください。

 靴を履く際は、椅子に座り靴ひもを緩めた状態で足を入れ、かかとをトントンと地面に当てて、かかとにフィットさせましょう。その状態を保ちながらつま先側はひもを緩めにし、足首側はしっかりと結んで固定してください。

 ただ、足の変形で靴がきつかったり、充血やタコなどができる兆候がある場合には、オーダーメードのインソールや補装具の作成が必要になるので、外来で頻繁に状態を診てもらってください。

 さらに、神経障害がある方が靴下をはかずに裸足の状態で歩くと思わぬケガを招きます。実際、糖尿病の患者さんで「足をケガしたけど、その部位を見るのが怖い……」と1カ月間放置し、受診された方がいました。外来で足を診ると、なんと、足の中から大量のウジが湧き出てきたのです。ウジはハエと同様に不衛生な環境を好むので、治療せず放置していた傷に湧いてしまったのです。

 ケガや感染を防ぐためにも、靴下は必ずはき、なるべく厚手のものを選び、毎日取り換えてください。また、つま先やかかとに縫い目がある一般的な靴下をはくと、皮膚と擦れて簡単に傷ができます。縫い目がないものを選ぶか、縫い目があっても裏返してはくようにしてください。縫い目が擦れづらくなります。

 ほかにも爪の形状にも注意が必要です。爪の先端がアーチ状だと巻き爪や陥入爪になりやすく、そこから傷ができて感染が起こりやすい。正面から見た際に爪の形が四角形に見えるスクエア状に切り、深爪にならないようつま先の先端は1~2ミリ程度残してください。

 ただ、視力が悪かったり体が硬い方がよく見えない状態で無理に爪切りを行うと、誤って皮膚を切って傷ができ、そこから感染を起こします。足の疾患センターでは患者さんの足の状態だけでなく、まず「体が硬いか」「視力が悪くないか」を確認し、塗り薬ではなく飲み薬に替えたり、提携しているフットケアサロンを紹介し、そちらで爪切りなどの処置を受けてもらっています。

田中里佳

田中里佳

2002年東海大学医学部卒業、04年同大学形成外科入局、06年米国ニューヨーク大学形成外科学教室留学、12年順天堂大学医学部形成外科学講座准教授、医局長を経て現職を務める。

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