「せいては事を仕損じる」という言葉があります。何事も焦ってしまうとミスが生じやすい。ケアレスミスなどは、まさにその典型ではないでしょうか。
焦りや不注意など人間がミスを誘発する要因はさまざまですが、北海道大学の村田による実験(2005年)は、とても興味深い事例だと言えます。
12人の被験者を対象に、映し出された矢印の向きと同じ向きの矢印のボタンを押してもらいました。その際、3つのグループに分けて行ったといいます。
①正解しても失敗しても特に何もないグループ
②報酬500円からスタートし、間違うか、時間内にボタンを押さないと1回につき2.5円が引かれてしまう“罰金”のあるグループ
③報酬0円からスタートし、1回正解するごとに2.5円がもらえる“成果報酬”のグループ
この実験では、罰金や報酬がミスとどのような関係があるのかを調べたわけですが、なんと②の罰金のあるグループだけが、①と③のグループに比べて大幅に低い正答率になったといいます。通常なら難なくできることであっても、時間内に正解しなければいけない、あるいは報酬が減ってしまうというプレッシャーから焦りが生まれ、ミスが増えてしまったというわけです。
また、早稲田大学の正木は次のような実験(2005年)を行っています。参加者は元金2000円を受け取り、ギャンブルを模したゲームを行います。特製の装置を使い、参加者は10円か50円か2つの選択肢から1つを選びます。そして、装置で「アタリ」が出ると選んだ金額がもらえ、「ハズレ」が出ると、その分のお金を損するというものです。
その結果、50円を損したときには、次も50円を選ぶ確率が高いとわかりました。大きな損をすると、それを取り返そうとあえてリスクを取りにいってしまうことが示唆されたのです。実際のギャンブルでも、大きなお金をかけて損をするほど、その損を取り返そうと焦りが生じ、大きな額を投じてしまうといったケースは少なくありません。
すでに使った費用やコストに対して「もったいない」といった心理が働き、合理的な判断ができなくなってしまう「サンクコスト(効果)」という現象があります。
サンク(sunk)とは「沈む・沈没」を意味する単語の過去形です。埋没してしまったコストに、人は焦りや憤りを覚え、正常な判断がつきにくくなるのです。
人間は損得を考えたとき、より「損」をすることに敏感に反応をする生き物です。詐欺やセールスなどでも「今なら儲かる」「今なら安い」といった常套句が躍るのは、これらに反応してしまう人が多いからでしょう。今行動しないと損をしてしまうかも──。そうした焦りが間違った判断を促してしまうのかもしれません。
行動する際には、損に対する反応を知り、意識的に衝動を抑えていく。目先の損を気にしているときこそ注意が必要。慌てて決めずに、一呼吸置くことを心がけてください。
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