高齢者の正しいクスリとの付き合い方

避難所ではなるべくトイレに行きたくないなら…利尿剤の中止も考慮する

能登半島地震で仮設住宅の建設も進むが…(C)共同通信社
能登半島地震で仮設住宅の建設も進むが…(C)共同通信社

 これまでは大規模災害時のクスリの取り扱いについてお話ししてきました。大事なことなので再度お伝えすると、避難時に持って行く荷物には必ず「お薬手帳」を入れておいてください。これによって、大規模災害時であっても服用・使用していたクスリの継続が可能になります。今回は、大規模災害時に注意が必要なクスリについて一部ですが紹介します。

 避難所で最も困ることは何かご存じでしょうか? 多くの場合、それはトイレです。今回の能登半島地震でもそうだったのですが、上下水道に被害が出るとトイレの使用が難しいだけでなく、場合によっては不可能になってしまいます。特に発災直後は簡易トイレも設置されていないため、ビニール袋に排泄しなければならないなんて状況になってしまいます。

 仮に簡易トイレが設置されたとしても、それまで当たり前のように使っていた自宅のトイレと比較すると、やはりどうしても衛生面で悪いことが多いです。そういった環境的な要素に加え、高齢者は足腰が不自由なこともあり、多くの方が「トイレに行きたくない」と考えます。

 できるだけトイレに行きたくないときに人はどうするのかというと、水分を取らないようになります。水分を取らないこと自体が血栓症などさまざまなリスクになりますし、心不全や高血圧などで利尿薬を服用している場合には特に注意が必要となることがあります。それは「脱水」です。

 脱水を起こさないためにはしっかり水分を摂取することが重要なのですが、かといって衛生状態の悪いトイレを頻繁に使用するのも感染症のリスクとなります。衛生環境がある程度改善されるまでは、利尿薬の服用を中止するというのも考慮してよいかもしれません。

 避難所での生活では、食生活も普段とは大きく変わります。支援物資で届けられる食事の多くはパンやカップ麺、おにぎりなどの炭水化物が主体です。また、避難所生活では食事摂取量が減るケースもあります。糖尿病でクスリを使っている場合には、そういった食生活の変化を考慮しなければならず、特に低血糖には注意が必要です。そのため、低血糖リスクの高いクスリの服用・使用を中止することも考えなければなりません。

 最も重要なのは、こういった判断は個人では絶対に行わず、必ず医療従事者の指示に従わなければならないということです。実際、東日本大震災のときには医療支援チームの医師と相談したうえで、そうしたクスリの調整を行いました。

 大規模災害時であっても、医療は可能な限りみなさんの力になれるような体制を整えています。何か困ったことがあれば、我慢せず遠慮なく申し出ましょう。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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