Dr.中川 がんサバイバーの知恵

見栄晴さんは治療で活動休止…咽頭がん「ステージ4」でも完治の可能性

見栄晴さん
見栄晴さん(C)日刊ゲンダイ

「大好きな競馬を楽しみながら、病気にも競馬にも勝てるよう頑張ります」

 ステージ4の下咽頭がんであることを公表したタレントの見栄晴さん(57)が治療のため芸能活動を休止することに際して、SNSで元気な姿をアピールしています。病気に負けることなく、趣味や仕事に打ち込めるのは何よりです。

 報道などによると、昨年末ごろからのどに違和感があり、受診して精密検査したところ、先月18日にステージ4の下咽頭がんと診断されたといいます。今週には入院し、抗がん剤や放射線で治療するそうです。

 咽頭は、鼻の奥から食道につながる部分で、鼻に近い方から上咽頭、中咽頭、下咽頭に分かれています。リスクは喫煙と飲酒です。

 声帯がある喉頭は早くから声のかすれなどが見られやすいのですが、咽頭は進行するまで症状が現れにくい。見栄晴さんは酒もたばこもたしなんでいたようですから、この2つの影響は強いでしょう。特に飲酒で顔が赤くなるフラッシャーは、より高リスクです。

 ただし、最近は胃がん検診に内視鏡が使われるようになり、咽頭の一部は内視鏡で同時にチェックできます。そのため以前に比べると、早期に発見されることも珍しくありません。

 飲酒や喫煙を楽しむ方は、減らす努力とともに、胃がん検診では胃カメラを選んで、かつ「咽頭もよく診てください」とお願いすることです。私も夕食時のアルコールが欠かせないのでそうしています。

 咽頭の周りはリンパ節が多く、リンパ節に転移しやすく、ある程度の大きさのリンパ節転移なら遠隔転移がなくてもステージ4に分類されます。しかし、遠隔転移がないケースでは、完治が見込める可能性も十分です。

 咽頭がんや喉頭がんは、かつては手術が中心に行われていましたが、最近は放射線と抗がん剤を組み合わせる化学放射線療法が普及しています。手術では、声帯が障害されて声を失うリスクがありますが、化学放射線療法なら、そのリスクがありません。

 もちろん、化学放射線療法にも、放射線で食道粘膜が荒れて食事がつらくなったり、抗がん剤で髪の毛が抜けたりする副作用のほか、骨髄への影響もあります。しかし、たとえば食道粘膜の影響については一時的に胃ろうを設置して回避することができます。あくまでも一時的ですから、声を失うほどのリスクとはいえないでしょう。

 ですから、見栄晴さんの治療選択は理想的なものだといえるでしょう。手術は再発時でよいと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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