子供の病気かと思ったら…「大人の中耳炎」には背後に深刻な病気が隠れている危険が

写真はイメージ
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 耳が詰まっている感じがして聞こえにくい--。発熱や痛みがないなら「滲出性中耳炎」の可能性が考えられる。中耳炎といえば子供の病気だと思われがちだが、大人が発症した場合、背後に深刻な病気が隠れているケースもあるという。「妙典さいとう耳鼻咽喉科」院長の齊藤達矢氏に聞いた。

「滲出性中耳炎」は、鼓膜の奥にある鼓室に液体がたまり、耳と鼻をつなぐ耳管の働きが正常に機能しなくなり起こる中耳炎だ。耳管の働きを低下させる原因には、アデノイド肥大、副鼻腔炎、急性中耳炎からの移行、アレルギー性鼻炎の悪化、加齢に伴う耳管機能の衰えなどが挙げられる。耳管は気圧の調整の役割を担っているが、働きが悪くなると中耳の圧力が低下(陰圧)し、粘膜から液体が染み出すことで中耳炎が引き起こされるという。

「症状は、耳が詰まっているような耳閉感や聞こえの悪さ、耳鳴りが特徴で、急性中耳炎のような発熱や激しい耳の痛みの症状は見られません。ほとんどは耳管機能が未熟なお子さんに発症しますが、当院では1カ月に数人は大人の患者さんも滲出性中耳炎と診断されています」

 30代の女性は、風邪をひいて鼻水の症状が長引いたものの徐々に軽快。その後、耳閉感と聞こえの悪さで耳鼻咽喉科を受診した。鼓膜の状態から滲出性中耳炎と診断され、さらに鼻腔内を内視鏡で見ると副鼻腔炎を起こしていたため、服薬治療を開始した。

「滲出性中耳炎の治療は、抗生物質や粘膜正常化剤などを用いて耳や鼻の粘膜の働きを改善させます。なかなか症状が改善しない場合には、鼓膜を切開し、中にたまった滲出液を抜く治療も行いますが、何度も再発する患者さんが少なくありません。繰り返すようであれば、鼓膜にチューブを挿入して滲出液がたまらないような手術も行っています」

■上咽頭がんが見つかるケースも

 大人の滲出性中耳炎の場合、見逃してはいけないのが「上咽頭がん」だ。上咽頭とは鼻の奥にある壁で、ここに腫瘍ができると耳管の入り口を塞ぎ、滲出液がたまりやすくなって滲出性中耳炎が起こりやすくなる。

「私が総合病院に勤務していた際に診た60代の男性は、耳閉感で来院されました。滲出性中耳炎と診断しましたが、問診で最近鼻血が出るというので上咽頭を見るために鼻からファイバースコープを挿入して確認したところ、上咽頭がんが見つかりました。がんの治療を行いながら、鼓膜を切開してたまった水を抜き、鼓膜に細いチューブを挿入して換気を行う滲出性中耳炎の治療を並行した結果、耳閉感の症状は改善されました」

 上咽頭がんは初期には自覚症状が現れにくい。がんが発見された際に多く見られる症状に「頚部のしこり」がある。その他、「耳閉感」「聞こえづらさ」などの耳症状や「鼻づまり」「鼻血」などの鼻症状、「物が二重に見える」などの脳神経症状も見られる。一見、関連のなさそうな耳の症状から上咽頭がんの診断にたどり着くこともある。ただ、医師によっては滲出性中耳炎の症状が長引いてから上咽頭を確認するケースも少なくないという。

「大人の方で滲出性中耳炎を患っていたり、急に発症して上咽頭がんが心配であれば、ホームページやブログなどで滲出性中耳炎と上咽頭がんの関連について記載しているクリニックを受診するといいでしょう」

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