イヤホン難聴でインスリン注射に、耳の治療で血糖値が急上昇…糖尿病とその予備軍は要注意

イヤホンで「難聴」になる人が増えているが…
イヤホンで「難聴」になる人が増えているが…

 街中でイヤホン姿の人を見ることが多くなった。「ストレス解消で好きな音楽を聴くため」「動画やテレビの配信を見るため」「スマホでの会話のため」など理由はさまざま。問題は、そのせいで「難聴」になる人が増えていて、その治療のために糖尿病が悪化するケースが目立つという。どういうことか? 糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・大田区蒲田)の辛浩基院長に話を聞いた。

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「最近、30~50代の比較的若い世代の血糖値が急に悪化して、インスリン注射が必要となるケースが目立ちます。調べてみると、イヤホンの長時間使用で突然難聴になり、治療していることが原因のひとつでした。その治療が糖尿病を悪化させているケースがあるようです」

 40代会社員のAさんは在宅勤務で、仕事場はもっぱら自宅か自宅近くの喫茶店。上司や部下との打ち合わせはスマホやパソコンで、イヤホンやヘッドホンは欠かせない。そんなAさんは突然、耳が詰まった感じがして聞こえにくくなった。鼻をつまみ息抜きしたが、戻らない。近くの耳鼻科で診てもらったところ、突発性難聴と診断された。

「突発性難聴は難聴のひとつで、ある日突然、聞こえなくなったり、聞こえづらくなったりする病気です。ストレスの多い人がかかりやすく、新型コロナ禍で急増したといわれています。理由は、新型コロナという新たなストレスが加わったことや、リモートワークによってイヤホンやヘッドホンを使う機会が増えてきたことが挙げられます」

 突発性難聴の代表的な自覚症状は、Aさんのように「耳がふさがる感覚」と「耳鳴り」がある。耳鳴りは1日数回、数十秒程度なら問題ないが、それを超えるようだと病的耳鳴りで、突発性難聴を疑う理由となる。

「突発性難聴はストレスなどにより血流障害が起きて、耳の中にある有毛細胞にダメージが起きたことで発症します。この細胞は音の震えをキャッチして電気信号に変えて、脳に伝える大切な役割があります。ただし、一度壊れると再生しません。そのため、突発性難聴は早期発見、早期治療が必要です」

 難聴治療の中心はステロイド剤による投薬治療。症状が軽い場合は飲み薬で、重い場合は入院して鼓膜の奥の「鼓室」に直接ステロイドを投与する。

 Aさんもステロイドの投薬治療を行った。しばらくして難聴は改善したが、今度は血糖値が高くなった。Aさんはもともと軽い2型糖尿病で飲み薬を使っていたが、それだけでは血糖値の上昇を抑えられなくなった。結果、インスリン注射の導入となり、いまも治療を継続中だ。

■ステロイドが血糖制御を乱す

「Aさんの血糖の急上昇の理由は、難聴治療のためのステロイドにあると考えられます。ステロイドは、難聴以外にも喘息や関節リウマチ、腎臓病、肺炎、アレルギーなどさまざまな病気の治療で使われますが、ステロイドによる治療が糖尿病を引き起こすことがあり、これを『ステロイド糖尿病』と言います。Aさんのように糖尿病の人がステロイド治療で病状を悪化させた場合はステロイド糖尿病とはいいませんが、血糖コントロールを乱すのは同じです」

 ステロイドは肝臓からの糖の放出を進めてしまうほか、血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌を抑える働きがある。さらにステロイドは食欲を促進するため、血糖を上げるリスクが高まる。

「治療のためのステロイドが厄介なのは、簡単にやめられず、血糖を下げるのが難しいこと。その治療は飲み薬の適応がないため、基本はインスリン注射となります。ステロイド糖尿病は、空腹時血糖値は正常で食後高血糖になるという特徴があるため、治療は食前に速効型のインスリンを打つことになります」

 ステロイド糖尿病を発症しやすい人は、ステロイドの投与量が多い人、投与期間が長い人、高齢者、肥満など、2型糖尿病リスクが高い人、家族に糖尿病の人がいる人など。むろん、すでに糖尿病の人も血糖値が悪化して症状が進むため、治療の強化が必要になる。

 だからといって難聴を放っておくわけにはいかない。難聴は認知症やうつ病、転倒、寿命に関係することが明らかになっている。ただ、難聴の急拡大の陰にはステロイド治療による血糖コントロール悪化の脅威が待ち構えていることも覚えておこう。

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