物事を新しく始めるとき、自己決定ができるか否かが重要です。たとえば、あなたがジムに通うと決めたとしましょう。その際、誰かから何かを指摘されるような環境ではなく、意思決定が自分に委ねられていることが大切です。
成功を収めた実業家のルーティンなどを紹介する本がありますが、その内容をマネしても、必ずしも同じ結果は得られませんよね?もしも誰にでも当てはまるなら、その本を購入した全員が大成功を収めることになります。しかし、実際にはそんなことは起こりません。
「これなら自分にもできそうだ(応用できそうだ)」という自己決定の態度が大事なのであって、「この人がこう言っているからやってみる」は、他者の言動に身を委ねているだけです。そのため、幸福度や充実度は向上しづらくなります。
モチベーション理論における「内発的動機づけ」の研究を長年続けていた心理学者エドワード・L・デシは、「ソマ・パズル」(立体パズル)を使い、「外的・内的報酬」に関する心理実験(1969年)を行っています。「外的報酬」とは、給与や地位など外から与えられる報酬。対して「内的報酬」とは、仕事で大きな成果をあげた際の達成感や充実感といった内面から湧き出る報酬です。
実験では、ソマ・パズルを解く被験者を2つのグループに分けました。それは、①パズルを解くと金銭的報酬(1ドル)を受け取れる②パズルを解いても金銭的報酬(1ドル)は受け取れない──です。
その上で、パズルに取り組んでから30分経つと、監視員が退室し、自由時間を与えられるという環境を用意しました。“パズルを勝手にやめてもいい”という条件をつくったのです。
結果、何が起きたのか? 報酬を受け取れない②のグループは、パズルに取り組む時間が長く、反対に①の受け取れるグループは、時間が短くなってしまったというのです。実験を主導したデシは、金銭という外的報酬が発生していないからこそ、②のグループはパズル自体に面白さややりがいを見いだした……つまり内的報酬が生まれたのではないかと説明しています。内的報酬があるからこそ、人は「もっとやってみよう」「がんばってみよう」と思えるというわけです。
人のモチベーションには、2種類あるといわれています。
ひとつは、「〇〇に言われたからやってみる」「がんばらないと家族を養えない」といった、恐れやプレッシャーによる動機を起因とした「ブラックエンジン」と呼ばれるモチベーションです。そして、もうひとつが、「自分のためにやってみよう」「家族を幸せにするためにがんばろう」といった、プラスの動機を起因とした「ホワイトエンジン」と呼ばれるモチベーションです。どちらも同じシチュエーションです。しかし、動機の支点をどこに置くかで、ブラックエンジンにもホワイトエンジンにもなりえます。
あなたが何かを始めようとするとき、外的報酬に惑わされないこと。そして、ホワイトエンジンを回すことを心がけてください。
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