Dr.中川 がんサバイバーの知恵

森永卓郎さんが報告した「原発不明がん」…組織検査が手掛かりになる可能性

経済アナリストの森永卓郎さん
経済アナリストの森永卓郎さん(C)日刊ゲンダイ

 原発不明がんという言葉をご存じでしょうか。独協大教授で経済アナリストの森永卓郎さん(66)は昨年、ステージ4の膵臓がんであることを公表しましたが、最近のラジオ番組でこれについて語ったことが話題を呼んでいます。

「私、膵臓がんステージ4ということになってたんですが、きょうのお医者さんが『どうも違うんじゃないか』と。結論は原発不明がん。どこから出ているか分からないという」

 がんが最初にできた場所を原発巣といい、転移してできた病巣を転移巣といいます。原発不明がんとは、転移巣が先に見つかってがんであることが診断されたにもかかわらず、原発巣が確認できない状態です。

 たとえば、ある臓器にできたがんはさまざまな検査で分からないほど小さいうちに転移して、その転移巣が原発巣より大きくなったケースが考えられます。まれに転移後に原発巣が小さくなったり消えたりすることもあります。

 それでも、画像診断技術の向上で原発不明がんは減少傾向で、全体の2%ほどです。原発巣が不明のままのこともありますが、治療の過程で分かることもあります。

 原発巣が不明でも、組織を採取して調べることは重要です。それによって「がん」であることは確定でき、組織型が手がかりとなって原発巣を推定でき、推定される原発巣に準じた治療が行われる可能性もあります。

 森永さんは今回、多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」を受けたところ、膵臓がんであれば現れるはずの遺伝子KRASの異常が見られず、膵臓がんとは関係の薄い遺伝子異常が3つ見つかったため、原発不明がんと告げられたようです。

 特定の遺伝子が変異すると、臓器の枠を超えてさまざまながんの発症原因となることが分かっています。そんな変異を特定するのが遺伝子検査です。変異を特定した上、かつその変異に対応する薬剤があれば、その薬を使うことで、完治に近い状態まで回復するケースもあります。

 ただし、残念ながら遺伝子検査を受けても、うまく治療に結びつくとは限りません。遺伝子検査は標準治療がない、あるいは標準治療が終わった人が対象で、毎年約100万人いるがん患者の1%です。さらに検査の結果、適当な薬剤が見つかるのは10%ですから、全体の0.1%に限られます。

 森永さんは、その後のラジオ番組でオプジーボで治療されていることを報告しています。オプジーボは、原発不明がんにも適応がある免疫チェックポイント阻害剤です。現在、さまざまな遺伝子変異をターゲットとした薬剤の研究開発が世界的に進められていますから、厄介ながんの治療も今後、進むことが期待されます。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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