疲労の謎がここまで分かった

疲労の謎がここまで分かった(2)休んでも回復しない「病的疲労」は脳内で炎症が起きている

写真はイメージ
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 前回、疲労は「生理的疲労」と「病的疲労」の2種類に大別されるとお伝えしました。

 1日休めば回復するような短期的な疲労を「生理的疲労」、これに対し強い疲労感が長期間続く疲労を「病的疲労」と呼んでいます。病的疲労は、れっきとした疾患であり、生理的疲労とはまったく違うものです。代表的なものとして、慢性疲労症候群、うつ病、そして新型コロナ後遺症が挙げられます。

 慢性疲労症候群は、日本だけでも8万~24万人の患者がいるとされています。新型コロナ後遺症の患者数は、2023年8月時点で、日本に300万人います。

 では、「生理的疲労」と「病的疲労」の違いは、なにが原因なのでしょうか。本質的な違いは、脳内炎症が起きているかどうかです。病的疲労は脳内で炎症が起きているのです。

 また前回、疲労の度合いは、唾液中の「ヒトヘルペスウイルス6」(HHV-6)の数でわかり、疲労するとHHV-6が再活性化して唾液中に増えるが、「病的疲労」ではHHV-6が増えないことも紹介しました。

 どうして病的疲労の場合、HHV-6が再活性化しないのでしょうか。

 病的疲労のひとつ、慢性疲労症候群の特徴として「労作後倦怠感」という現象があります。軽い労作(仕事や運動)のあと、数時間~48時間後に、急激に強い倦怠感が出てしまう症状です。慢性疲労症候群でHHV-6の再活性化が見られないのは、労作後倦怠感が生じるために、HHV-6が再活性化するほど「生理的疲労」を蓄積できないと解釈することもできます。この労作後倦怠感は、新型コロナ後遺症でも高頻度で見られます。

 つまり、とても疲れているときに唾液を測定してみて、HHV-6がうじゃうじゃいれば生理的疲労なのでまだいいけど、HHV-6がほとんどいないときは病的疲労を疑った方がいいということです。病的疲労を抱えているということは、うつ病の予備群である可能性も高い。

 唾液中のHHV-6の検査は、まだ一部の医療機関でしか行われていません。検査料も高額です。この検査を手軽に、比較的安価で受けられるシステムを作る必要があると思います。この検査が普及すれば、疲労度を測るだけでなく、うつ病の早期診断にもつながるはずです。(つづく)

近藤一博

近藤一博

大阪大医学部卒。近著「疲労とはなにか」(講談社)

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