前回、発症早期では蜂窩(ほうか)織炎との鑑別が難しい疾患として壊死(えし)性筋膜炎やガス壊疽(えそ)があるとお話ししました。今回は「ガス壊疽」を取り上げます。
ガス壊疽も壊死性筋膜炎と同様に急速に進展する非常に厄介な疾患です。原因菌としては、クロストリジウム属などの嫌気性細菌により発症するケースが多いといわれていますが、腸内細菌などの一般細菌によっても発症することがあります。
嫌気性細菌は空気のないところで繁殖する特徴があります。同じクロストリジウム属の細菌としては食中毒で有名なボツリヌス菌や、外傷などが原因となって発症することが多い破傷風菌などがよく知られています。
クロストリジウム属の細菌は土壌にも存在していて、交通外傷などもガス壊疽の原因になります。多くの場合、皮膚が損傷した際にこれら細菌に感染し、低酸素環境下において細菌が増殖。メタンや二酸化炭素などのガスを産生します。皮膚の下にガスがたまると、傷の周囲で強い痛みを伴う赤い腫れが急激に現れ、すぐに悪化していきます。その後、大きな水ぶくれとなり、茶褐色または血の混じった分泌物が多く出て、腐敗臭やドブのような臭いを発します。
治療しないで放置していると48時間以内に死に至る可能性があり、治療しても約8人に1人は死亡することが報告されています。壊死性筋膜炎と同様に適切な抗菌薬の投与、壊死組織の外科的除去(デブリードマン)が必要となります。
病原菌によっては「高気圧酸素療法」と呼ばれる治療を行う場合もあります。気密したタンクの中で酸素の圧力を大気圧以上に上げ、血液中に溶けている酸素の量を増やして体の隅々まで酸素を行き渡らせる治療法です。この高気圧酸素療法は、嫌気性細菌などに対する殺菌作用が期待され、壊死性筋膜炎や脳梗塞、急性一酸化炭素中毒などの治療にも用いられています。
私も以前、患者として高気圧酸素療法を受けた経験があります。治療の際に圧力を上げると、鼓膜が内側に押されるため「耳抜き」をしなければなりません。それができず、鼓膜を切開してチューブの留置を行い、治療に臨みました。
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