やせる糖尿病薬「SGLT2阻害薬」の意外な副作用…多血症との関係

健康診断時は服薬の告知を
健康診断時は服薬の告知を

 血糖値だけでなく体重も落ちる。痩せる糖尿病薬として人気のSGLT2阻害薬だが、服薬している人は注意が必要だ。多血症と診断される可能性がある。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に聞いた。

 55歳の男性は役職定年を迎えてしばらくして、体重が増えてきた。責任あるポジションから離れたものの、年下の上司を陰で支えつつプレーヤーとして部署の成績を維持するのは想像以上にストレスだった。

 気がつけばお酒の量が増え、ズボンのウエストがきつくなっていた。体が重いだけでなく倦怠感があり、心なしか以前に比べて喉も渇いている気がした。糖尿病だと感じたという。

「その男性がさっそく糖尿病専門医のもとを訪ねたところ、予想通り糖尿病と診断され、糖尿病の薬の処方箋をもらったといいます。薬はSGLT2阻害薬です。医師からは『きちんとお薬を飲んでいれば血糖値だけでなく体重も落ちていきますから、まじめに飲んでくださいね』と言われたそうです」

 医師の言葉に従ってまじめに薬を飲み続けた男性は、しばらくすると確かに体重が減ってきたという。1カ月もすると4キロほど落ち、体調も回復した。

 ところが、回復直後の健康診断では期待に反して意外な病名を告げられ精密検査を受けるよう強く勧められたという。

「『多血症』の疑いがあると診断されたそうです」

 多血症とは血液中の赤血球の濃度が高くなる病気のこと。血液の粘性が高まることで血行の悪化を招き、脱力感、疲労感、頭痛、ふらつき、めまい、視界のゆがみなどの症状が現れる。赤ら顔、目や口の中の粘膜の充血などが見られることも多く、皮膚のかゆみのほか肝臓や脾臓が腫れることもある。

「多血症は進行すると血液が固まりやすくなるため、血管内に血栓ができて心筋梗塞や脳梗塞、肺塞栓症などの発症リスクが高くなります。多血症のタイプによってはごくまれにですが、白血病に進行することもあります」

 なぜ、この男性は多血症の疑いを宣告されたのか? それは血液検査で赤血球の成分の数値が高かったからだ。

「血液の濃さを示す指標は『ヘモグロビン値(Hb)』と『ヘマトクリット(Ht)』があります。ヘモグロビンは赤血球の中にあるタンパク質の一種で、肺で酸素と結びつき全身に酸素を運ぶとともに不要になった二酸化炭素を肺に戻します。ヘモグロビン値は1デシリットル当たりの数値で成人男性は13.0~16.6グラム/デシリットル、成人女性は11.4~14.6グラム/デシリットルが正常とされます。ヘマトクリットは血液(へマト)100ミリリットル中に占める赤血球の割合の数値で、正常値は成人男性は40~50%、成人女性は35~45%です」

 この男性はヘモグロビン値、ヘマトクリットともに異常値だったという。原因はSGLT2阻害薬だった。

■服薬を中断すれば数値は戻るが…

「SGLTはナトリウム・グルコース共役輸送体と呼ばれるタンパク質の一種で、ナトリウムはグルコース(ブドウ糖)を細胞内に取り込む働きをします。SGLT2はその中でも、腎臓の近位尿細管という限局した部位に存在しています。SGLT2阻害薬はその働きを阻害することでブドウ糖の再吸収を抑え、血糖値を下げる薬です」

 この薬は従来の糖尿病の薬のようにインスリンを分泌する膵臓を、薬を飲むたびに刺激して酷使させることがない。そのため、膵臓に優しい糖尿病薬として高い評価を得ている。

 しかしその一方で、血管から水分を排出させ、見かけ上、血液中の赤血球の割合を大きく見せる場合がある。

「多血症には3種類あります。①血管内を循環している赤血球の量が増加する『絶対的多血症』②血管内を循環している血漿の量が減少することで、見かけ上の赤血球が増加した『相対的多血症』③主に喫煙によりヘモグロビンが一酸化炭素と結合して全身への酸素供給量が減少し、その代償として赤血球が増加する『二次性赤血球増加症』です。SGLT2阻害薬は相対的多血症を招くだけでなく、腎臓へのストレスを軽減させることで腎臓での造血因子(エリスロポエチン)の分泌を促進して赤血球増加が起こるとも考えられます。ただ、現時点ではSGLT2阻害薬による多血症が大きな問題になっているわけではなく、薬をやめれば元の値に戻ります」

 健康診断で、糖尿病治療のためSGLT2阻害薬を服薬していることを告げておかないと、健康診断の医師が誤解する恐れがある。SGLT2阻害薬を飲んでいる人は、そうしたことが起きる可能性があることも知っておく必要がある。

関連記事