Dr.中川 がんサバイバーの知恵

堀ちえみさんは舌がん克服…がん診療連携拠点病院がベター

堀ちえみさん
堀ちえみさん(C)日刊ゲンダイ

「この5年もの長い期間、ご尽力いただきました皆々様に、心より御礼申し上げます」

 自らのブログにこう投稿したのは、歌手の堀ちえみさん(57)です。舌がんの手術から5年が過ぎ、「舌がん完治しました!」と喜びを報告しています。

 がんになると、再発や転移を調べるため、定期的な検査が必要です。舌がんの場合、治療後2年以内に再発することが多く、2年以内は1~2カ月に1回、その後は患者さんの状態によって変わりますが、定期検査は5年間続きます。

 舌がんを根治する治療法は、手術か化学放射線療法です。一般に手術は正常な部分を含めて大きく切除することが多く、食事や会話が不自由になりやすい。一方、放射線と抗がん剤を同時に併用する化学療法は、舌を残すことができるため機能を温存できますが、入院期間は手術の2倍で、途中で離脱する人もゼロではありません。

 どちらも一長一短あることが分かるでしょう。そんな重い選択を迫られたとき、堀さんは手術を選択。手術は成功しましたが、ブログには術後に落ち込んだこともつづられています。歌手という仕事柄、「治療の選択は間違いだったか」と涙を流したこともあったようです。

「やっぱりあの時手術を選んで正解やった。あの手術がなかったら、オカンはおらんかったかも知れんし。そしたら今日のこのステージ(編集部注・昨年の復帰ライブ)もなかった。それを考えたらこれで良かったっていうことやな」

 復帰ライブを終え、長男にこう励まされたといいます。お子さんやご主人の支えがあったから乗り越えられたつらさでしょう。

「がんは患者だけでなく、家族にとっても大変辛い経験です」と書かれた言葉はその通りだと思いますし、家族の絆が問われる病気だと思います。しかし、堀さんのように家族力で病気を乗り越えたとき、家族の絆が深まるのも事実です。まさに堀さんがそうだと思います。

 がんの治療は、どれかを選ぶと、基本的に後戻りができないことがほとんどで、“敗者復活戦”のない一発勝負。それだけに医療機関の選択は、とても重要です。その選択に悩んだら、がんの種類ごとに治療実績が豊富な病院がベターで、少なくともがん診療連携拠点病院で受けるのがよいと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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