60歳以上が対象の「RSウイルスワクチン」承認…接種を考えたほうがいい人は?

基礎疾患がある人は検討を
基礎疾患がある人は検討を

 昨年9月、60歳以上を対象とした「RSウイルスワクチン」が承認され、今年に入って接種が開始されている。RSウイルス感染症の予防に役立つというが--。

 RSウイルス感染症は、RSウイルスに感染することで引き起こされる呼吸器疾患だ。発熱、鼻汁、咳といった症状があり、非常に一般的な病気だが、特効薬はなく、予防が肝心。今回のワクチンは、60歳以上を対象にしたRSワクチンとして国内初となる。

「RSウイルス感染症は、これまで乳児や新生児の病気として考えられてきました。しかし近年、成人、特に高齢者にとっても、併存する基礎疾患などによっては重篤な症状をもたらすことが明らかになり、いかに対処するかが課題となっています」

 こう言うのは、東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授の舘田一博医師。

 例えば、海外のデータになるが、「コロナ以前、RSウイルス感染症は高齢者におけるインフルエンザ様症状疾患の原因の第3位」「米国では、RS感染症は50歳以上の成人の急性呼吸器感染症による受診の最大12%の原因」という報告がある。

 また、代表的な呼吸器疾患の一つ、COPD国際ガイドラインの最新版「GOLD report2024」では、COPD患者に対してRSワクチン接種を「エビデンスA」として強く推奨している。2年前の「GOLD report2022」では、インフルエンザ・肺炎球菌・帯状疱疹の各ワクチン接種には言及していたが、RSワクチンは記載がなかった。

■寝たきりや介護の引き金になることも

 なぜ高齢者にRSワクチンが必要なのか?

「免疫力が落ちている高齢者はRSウイルスに感染しやすく、RSウイルス感染症が重篤化しやすい。さらに高齢者は基礎疾患を多数持っており、それによってRSウイルス感染症がより重篤化。そして基礎疾患も重篤化するリスクがあります」(舘田医師=以下同)

 基礎疾患とRSウイルス感染症入院比率を示したデータがある。それによると、RSウイルス感染症で入院する確率が、喘息がある人は2~3.6倍、COPDがある人は3.2~13.4倍、糖尿病がある人は2.4~11.4倍、冠動脈疾患は3.7~7倍、うっ血性心不全がある人は4~33.2倍高い。

 60歳以上でRSウイルス感染症により入院した際、基礎疾患がどれくらい増悪したかを報告したリポートでは、喘息が50%、COPDが80%、うっ血性心不全が38%だった。

 RSウイルス感染症は、インフルエンザのように急に強い全身症状が出て数日で回復期に至るのではなく、4~5日間の潜伏期を経て、発熱・鼻汁といった上気道炎が2~3日、咳・喘鳴・呼吸困難が4~5日と症状がだらだらと続き、回復まで時間がかかる。

「高齢者ではQOL(生活の質)、ADL(日常生活動作)への影響が大きく、RSウイルス感染をきっかけに、プレフレイルからフレイルへ、そして寝たきりや介護へと移行することもある」

 入院となればなおさらだ。RSウイルス感染症で入院した成人患者の「24.5%が在宅ケアを必要」「26.6%が退院後3カ月以内に再入院」「入院後1年以内の死亡率は約25.8%」といった報告もある。

 今回、60歳以上を対象に承認されたワクチン「アレックスビー」は、下気道疾患への有効性が約83%。1つ以上の注目すべき基礎疾患(※1)を併存する人、または1つ以上の注目すべき心肺疾患(※2)を有する人では、下気道疾患への有効性はそれぞれ約95%、約92%だった。副反応としては、疼痛、筋肉痛、関節痛、疲労があるが、安全性はプラセボ群と同程度の割合だった。

 日本では任意接種で、2万6000円など(病院による。接種回数は1回)。基礎疾患がある人は、検討する価値がある。

※1 COPD、喘息、慢性呼吸器/肺疾患、1型または2型糖尿病、慢性心不全、進行した肝疾患または腎疾患
※2 COPD、喘息、慢性呼吸器/肺疾患、慢性心不全

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