白髪を科学する(3)抗白髪製品…カラートリートメントとの違いは?

理論上では治せるとはいえ…
理論上では治せるとはいえ…

「投薬や治療の副次的な作用で偶発的に白髪が元の色に戻ったという事例は、医師らの症例報告だけで30件以上あります。白髪の改善は理論上不可能ではありません」

 こう言うのは資生堂リサーチセンター(研究所)で主に薄毛、白髪の研究に携わってきた日本毛髪科学協会役員の出田立郎氏だ。

 そもそも髪の毛の色の本体はメラニン色素で、アミノ酸の一種であるチロシンを原料にして色素細胞(メラノサイト)内で合成されメラニン顆粒となり、それが髪の毛の中に供給されている。

 ただし、ヒトの毛髪は「成長期」「退行期」「休止期」のヘアサイクルがあり、抜け替わる。色素細胞もそれに同調し、退行期にはメラニン合成はストップし、メラノサイトの数は激減。次の成長期に入ると、毛包の近くのバルジと呼ばれる場所に分布している色素幹細胞からメラノサイトの前駆細胞であるTA(Transient Amplifying)細胞が産出され、それが新たに毛根の先の毛乳頭周辺に遊走、定着してメラノサイトとなり、髪の毛にメラニン顆粒を供給する。

 白髪になる人はこうしたメラノサイトサイクルのうち、①色素幹細胞が衰え十分なTA細胞が供給されない②供給されたTA細胞がうまく毛乳頭周辺に配置されない③配置後、十分な量まで増殖する能力がない④色素細胞があってもメラニン合成活性が失われている……といった異常事態が起こっていると考えられている。

 そこで、医薬品・化粧品メーカーなどはこの4つのポイントをターゲットにした「白髪に効果が期待できる生薬抽出物」の開発を進めている。

 たとえば、サンショウエキスやホップエキスはメラノサイトを、レイシエキスは毛包メラノサイトを、ヤーバサンタは色素幹細胞を、ボタンピエキスはメラノサイト内のミトコンドリアを、それぞれターゲットにして、遊走活性化、増殖活性化、幹細胞維持、色素顆粒輸送活性化などを目指している。

 つまり、抗白髪製品は、髪の毛の表面に色をつけるカラートリートメントとは異なり、白髪を根元から元の色に変えようとするものだ。

 しかし、白髪の8割はメラノサイトが存在せず、残り2割は存在しても毛髪に十分な色素を与えることができない。そのため、いくらメラノサイトを含むメラノサイトサイクルを刺激・活性化しようとしても、必ずしも満足できる成果が上がっていないのが実情だという。 (つづく)

▽出田立郎(いでた・りつろう)資生堂美容技術専門学校非常勤講師、日本臨床毛髪学会監事、日本色素細胞学会評議員、日本毛髪科学協会役員。東京大学大学院卒(理学博士)。1988年資生堂入社。リサーチセンター(研究所)で主に薄毛、白髪についての研究開発に携わる。2019年同社を退社。現在に至る。

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