京丹後の研究で見えた「健康で長生きする」ためにやるべきこと…腸内研究の第一人者に聞いた

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 腸内研究の第一人者である京都府立医科大学大学院生体免疫栄養学講座の内藤裕二教授は、2017年から京都府京丹後市で長寿に関する研究を実施している。話を聞いた。

 京丹後は、京都府の北部、日本海側にある地域。長寿者が国内でも群を抜いて多い。

「2023年9月1日時点で、満100歳以上が116人。これを人口10万人当たりの100歳以上の数にすると、全国平均の約3倍、京都府平均の約2.7倍となります」(内藤教授=以下同)

 単に長寿者が多いだけではない。極めて健康であることも内藤教授らの研究でわかっている。

 京丹後市の65歳以上、798人のデータ解析を行った結果では、糖尿病の疑いのある人は1.8%、認知症の疑いのある人は7.5%。加齢で筋肉量が減少した状態を指すサルコペニアは、握力がひとつの指標になるが、握力低下でサルコペニアが疑われる人は17.1%。フレイルの指標である「Modified Frailty Index」を用いて調べると、フレイルと見なされた人は15%だった。

「世界最高齢の116歳54日は、京丹後の男性の記録です。この方は2013年に亡くなられましたが、この記録はまだ破られていません」

■腸内環境に注目

 長寿かつ健康の理由として内藤教授が着目していることのひとつが、腸内環境だ。

「高齢者ほど重症化しやすい感染症であるインフルエンザの罹患率が、京丹後の高齢者は低いのです。リンパ球を調べると免疫力が平均的な高齢者に比べて高い。また、京丹後では大腸がんが少ない。免疫力や大腸がんは、腸内環境との関係が非常に深い」

 サルコペニアやフレイルが京丹後の高齢者には少ないと前述したが、それも腸内環境が関わっている可能性がある。腸内環境が悪く、腸管に炎症が起こると、それが微小であっても全身の炎症につながる。慢性的に炎症が体内で起こると、大量のエネルギーを必要とするため、筋肉が分解されてしまう。

 フレイルに、腸内細菌が関係していることを示した研究もある。それは、筋力が低下しやすい慢性腎臓病の人を対象にした研究で、それによると大腸菌の一種であるシトロバクター菌が多いとフレイルが進行しており、酪酸菌(酪酸を産生する菌の総称)の一種であるロゼブリア菌が多いほどフレイルになっていなかった。

 内藤教授らの京丹後の長寿研究は今後も長期にわたって行われるので、新たに解析されて判明する内容はこれからも多々あるだろうが、現時点で私たちが取り入れたいことは次の通りだ。

「腸内環境を良くする上で、何を食べるかが最も重要。よく『肉を食べてタンパク質摂取を』とメディアなどで報道されますが、京丹後の高齢者は動物性タンパク質の摂取は多くない。消化器内科が専門の私から見ても、肉に含まれる動物性脂肪の取りすぎは腸内環境を悪化させるので、お勧めしません」

 肉の摂取は少なめにし、大豆・大豆加工食品などに多い植物性タンパク質を意識的に取る。さらに発酵食品、野菜、きのこ、玄米、果物、海藻類も積極的に取る。

「これらの食品には食物繊維が豊富です。私は、WHOが推奨する食物繊維25グラム以上を1日の摂取目安にしていますが、相当計画的に取らないと達成できません。私の場合、朝はリンゴ、キウイ、柿などの季節の果物が入ったスペシャルスムージー、主食は玄米や全粒穀類。京丹後の高齢者も食物繊維を日頃から摂取しており、野菜やきのこ、海藻、豆腐などが入った具だくさんのお味噌汁を召し上がっている方が多かったですね」

 運動も、不可欠だ。京丹後の高齢者は朝早く起きて畑や海で労働。普通に生活しているだけでも、活動量が日常的に多い。車や電車、バスなどの利用が多い人は、極力歩くようにして“チリも積もれば”的に活動量を増やしていきたい。

 なお、京丹後の世界最高齢の男性、木村次郎右衛門さんは、20歳から65歳まで郵便局で勤務。毎朝5時半起床、午後8時就寝。朝はヨーグルト、サツマイモ、梅干し、夜は生乳を飲むことが日課だったという。

 健康で長生きするためのヒントにしたい。

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