2型糖尿病なら注目したい 慢性腎症リスクを低下させる飲み薬

副作用が少なく、血圧や血糖値も下がる(写真はイメージ)
副作用が少なく、血圧や血糖値も下がる(写真はイメージ)

 2型糖尿病の3大合併症のひとつである「糖尿病性腎症」は命に関わる病気だ。病状が進行し、腎臓の機能が低下して慢性腎症(CKD)となると、心筋梗塞や脳梗塞、脳卒中などの心血管イベントリスクが高くなる。その過程で人工透析となる人も多い。

 糖尿病専門医は、あらゆる治療テクニックを用いてそれを回避することに努めているが、ある薬剤の登場で、CKD並びに人工透析を劇的な割合で回避できるようになったという。

 2型糖尿病患者なら注目したいこの薬を糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に解説してもらった。

■副作用が少なく、血圧や血糖値も下がる

 話題の薬は「フィネレノン(一般名。商品名はケレンディア)」。2型糖尿病を合併するCKDを対象とした初めての飲み薬で、日本では2022年5月に登場した。すでに米国、欧州、中国など世界70カ国以上で承認されている。末期の腎不全、透析中の患者は対象外で、10ミリグラムと20ミリグラムの2種類がある。

「腎臓には血液中の老廃物や塩分をろ過して、尿として体外に排出する働きがあります。その中心が毛細血管の塊である糸球体で、それに連なるのが尿細管です。ここではろ過した尿(原尿)に含まれるブドウ糖などの栄養素やナトリウムやカリウム等の電解質など、ヒトに必要なものを再吸収します」

 糸球体や尿細管の細胞表面にはミネラルコルチコイド受容体(MR)があり、副腎から分泌されるアルドステロンと呼ばれるホルモンと結合することで、血圧調整やミネラルバランスを調整している。

 ただし、塩分過多になったり、血糖値が上がったり、アルドステロンの働きが過剰になったりすると、体の中に塩分が過剰に貯留して血圧を上昇させ、慢性炎症や線維化による臓器障害を起こす。

 逆に言えば、飲み薬のフィネレノンが先にMRと結合することで、アルドステロンの働きを阻害すれば、尿細管での再吸収が減り血圧の上昇が抑えられ、血糖値も下がり、腎臓も保護できるというわけだ。

「じつはこれまでも同様の薬はあったのですが、MRは尿細管以外の臓器の細胞表面にも点在しているため、薬によっては腎臓以外の臓器に作用して女性化乳房、高カリウム血症といった副作用が出ることがありました。フィネレノンは腎臓のMRにより選択的に働くうえ、薬の構造がステロイドのような骨格構造ではないため、副作用が起きにくく、腎臓の線維化などが防げるというわけです」

 辛院長がこの薬をインスリン注射している50代男性に投与したところ、腎機能を表す血清クレアチニン(CR)値が低下し、尿タンパクが減少したという。

「糖尿病腎症の検査には尿検査と血液検査があります。尿検査では尿にタンパク質や血液が混ざっていないかを調べます。また、尿中のアルブミン(タンパク質)の排出量を調べることで、糸球体のろ過機能がどの程度低下しているかを調べることができます。この男性は、以前から顕性尿タンパク陽性で、減塩を中心にした食事療法でコントロールしていました。しかし、腎機能が徐々に悪化し、CR値(正常値‥男性1.2㎎/デシリットル以下、女性同1.0以下)が2.26、eGFR(推算糸球体ろ過量、正常値‥60ミリリットル/分/1.73㎡以上)25.7まで悪化しました。そこでこの薬を処方したところ、3カ月後にはCR値2.06、eGFR28.5と腎機能の改善がみられました。また、尿蛋白/Cr比(正常は0.15g/gCr未満)も1.05から0.85まで回復したのです」

■透析を回避する可能性も

 フィネレノンはその働きにより、慢性炎症や線維化による腎臓のダメージを抑えることが期待されており、その結果として、透析を回避して天寿をまっとうすることも可能にしてくれるのではないか、と考えられている。

 フィネレノンの利点はそれだけではない。MRは腎臓の糸球体や尿細管の細胞表面上だけでなく、血管や心臓など体全体の細胞に発現しているため、血管や心臓の線維化をも抑えることができると考えられている。

 実際、フィネレノンを使った幅広い心不全の患者を対象とした、有効性と安全性を評価する臨床試験がスタートしており、心不全の治療薬としての働きも期待されている。

「心不全の治療は、利尿剤によるうっ血の回避など、治療法が限られていましたから、フィネレノンが適応拡大すれば、心臓病の患者さんにとっても朗報となるはずです」

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