しっかりと勉強した内容を頭の中に記憶させることは、思っている以上に難しい。せっかく覚えても、覚えたことが頭の中で整理ができていないなら、ごちゃごちゃのままで記憶として定着しません。
自分が学んだことを誰かに教えようとして、うまく説明できなかった経験がある人は多いのではないでしょうか。
教えるという行為は、教える側がしっかりと内容を理解し、整理してインプットすることが重要です。まばらに頭の中に叩き込んでも、人にはうまく伝えられないのです。
ワシントン大学セントルイス校のネストイコらは、「後で人に教えるという意識を持って勉強すると、それだけで学習効果が上がる」という興味深い研究(2014年)を行っています。人に教えるという意識を持つからこそ、まばらにインプットしないようになる--。そんな逆転の発想で、勉強をしようというわけです。
実験では、56人の大学生を、次の3つのグループに分けました。
①人に教えることを前提にしたグループ②後でテストを受けることを前提にしたグループ③特に何も前提としないグループ。その上で、ある戦争映画における描写と史実に関する1541語からなる文章を読ませ、関係のないことをしばらくしてもらった後に、学んだ内容についての自由記述および、内容に関する短答式のテストを実施しました。
その結果、自由記述と短答式、双方において①のグループの成績が良くなったといいます。教えることは、自分の持つ知識や技術を、学ぶ側(学生や部下など)に一方的に伝える作業に見えるかもしれませんが、学ぶことと教えることは表裏一体です。
私は、学生時代の塾講師のアルバイトを含めると30年以上も教える仕事に携わっていますが、「教える=学ぶ」だと常に痛感しています。
教えるためには、内容をしっかりと理解する必要がありますよね。また、教える行為そのものに、頭の中をいったん整理して、自らの理解を深める効果があると、私自身感じています。ネストイコらの実験が面白いのは、勉強するときに「後で誰かに教える」と思っているだけで効果があるという点でしょう。
みなさんも思い当たる節があるはずです。誰かに大事な伝言を伝えてくれと頼まれたとき、その内容は他の記憶よりちゃんと覚えているはずです。それは、あなたに正確に伝えたいという気持ちがあるからこそ、頭の中にインプットされやすくなり、理解につながっているから。そう考えると、誰かに教えると意識しながら学ぶというのは、たしかに物事をより咀嚼(そしゃく)して定着させられそうです。
教えるという意識を持てば、緊張感や集中力、注意深さを持って、学んだり深掘りしたりできます。ただし、その意識を持っているだけだと、脳が慣れてきて、「これはウソだな」と思ってしまうかもしれません。
それを回避するためには、家族や友人、パートナーなどに、実際に説明するような機会があることが望ましいです。「誰かに教えたい」、その気持ちを忘れずに!
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