高齢者の正しいクスリとの付き合い方

「塩」はクスリとしても使われている…内服するケースも

クスリとしての塩は意外と身近
クスリとしての塩は意外と身近

 みなさんは「塩」と聞くと、料理の味付けを思い浮かべると思いますが、じつはクスリとしても使われています。正式には「塩化ナトリウム」といいます。普段、料理で用いられる塩も塩化ナトリウムが主な成分になりますが、他にもさまざまなミネラルが含まれていて、それによってただ塩辛いだけでなく“うまみ”も感じられるのです。

 一方、クスリとして用いられる塩の成分は塩化ナトリウムのみなので、塩辛いだけでうまみは感じられません。では、クスリとしての塩はどのようなときに用いられるのでしょう。

 ひとつは注射薬です。われわれの血管の中に水を投与すると、溶血といって赤血球が壊れてしまいます。水は濃度が低いところから高いところに移動する性質があるからです。水の投与により血液の濃度が極端に薄くなってしまうことで血液と赤血球の間に濃度の差が生じます。そうすると水が濃度の高い赤血球内に移動し、パンパンになって風船が割れるように赤血球が壊れてしまうのです。これを防ぐために、水に“何か”を溶かして血液と同じ状態にします。溶かすものにはいくつか種類がありますが、その代表的なもののひとつが塩なのです。

 みなさんも一度は「生理食塩液」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これは水に塩化ナトリウムを溶かして血液に近い状態にしたものです。生理食塩液は脱水時の水分・塩分補給はもちろん、抗菌薬などさまざまなクスリを溶解するときにも使われています。

 内服するケースもあります。内服で塩を服用するのは、ただ塩辛いだけなので結構しんどいですが、疾患によっては尿から多くのナトリウムを失うものもあるため、それを補うために塩化ナトリウムを服用するのです。

 内服でもっとも多いのは、経腸栄養で栄養を補給している場合です。経腸栄養は胃ろうなどを通じて栄養剤を直接消化管に入れる方法で、超高齢者で口から食事が取れない場合などで選択されます。経腸栄養に用いられる栄養剤は塩分量が少なく作られていて、1日分の栄養剤に含まれる塩分量は2グラム程度(栄養剤の量によって増減します)しかありません。日本人が食事で摂取している塩分量は約10グラムとこちらは多すぎるのですが、かといって栄養剤の2グラムでは少なすぎます。そのまま放っておくと塩分不足になって低ナトリウム血症に陥ってしまうため、クスリとして塩化ナトリウムを用いるのです。

 それならば最初から栄養剤にもっと塩分を足しておいてよと思うかもしれませんが、それでは減らしたいときに減らせなくなってしまいます。少なければ後からいくらでも足すことができるということなのでしょう。

 クスリとしての塩は意外と身近です。一度じっくり探してみてはいかがでしょう。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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