Dr.中川 がんサバイバーの知恵

脂質異常症、糖尿病、解熱鎮痛…ありふれた薬の抗がん効果

日常的に使われる薬に抗がん効果が
日常的に使われる薬に抗がん効果が

 生活習慣病などで日常的に使われる薬が、がんとの関係で注目されています。大阪大と国立がん研究センターのグループは、男女6万7768人を対象に抗コレステロール薬のスタチンとがん罹患リスクについて10年間追跡。スタチンを5年以上服用したグループは肝臓がんのリスクが有意に低下した一方、膵臓がんのリスクは有意に上昇していたと報告しています。

 この研究で相反する結果が出たことは解釈が難しいですが、スタチンを巡っては国内外でがん予防効果が相次いでいます。東京理科大の研究では、スタチンを服用したグループは、非服用グループに比べて発がんリスクが15%低下。消化器がんでは21%下回っていました。

 血糖降下薬のピオグリタゾンでは、カナダの研究で膀胱がんのリスクが63%も高まっていて、薬の量が多いほど、服用期間が長いほど、リスクが上昇しています。

 胃潰瘍や逆流性食道炎などに用いられるプロトンポンプ阻害剤は、服用していない人に比べて膵臓がんのリスクが2.2倍。特に40歳以下で長期服用している人は同8.9倍にまで上がっていたのです。胃がん、大腸がん、胆道がんなどにリスク上昇の結果になっています。

 鎮痛薬でおなじみのアスピリンは2011年、75ミリグラム以上を毎日服用するとがんによる死亡リスクが20%も低下。5年以上の服用では、胃や大腸など消化器がんの死亡リスクが50%以上も下がっていたのです。

 市販薬を含めて薬によっては見逃せない効果が見て取れます。中でも注目は、糖尿病治療で古くから使用されるメトホルミンです。米テキサス大の研究によると、この薬の服用者は、膵臓がんのリスクが62%も低下。肺がんや大腸がん、乳がんなど多くのがんで抗がん効果があったとする研究結果が報告されています。

 横浜市大は大腸ポリープ切除後の新規ポリープ発生が抑えられたとする結果を報告。この結果から大腸がんの予防効果がうかがえます。国立がん研究センターは、脳腫瘍のひとつ膠芽腫について、標準治療にメトホルミンを追加する臨床試験を行っています。

 さらに米国立老化研究所によると、メトホルミンを投与したマウスは、投与していないマウスに比べて寿命が5%延び、がんの発症は減少したそうです。

 メトホルミンを使用した糖尿病患者の方が長生きであることも分かっていて、米国では「メトホルミンによる加齢抑制研究」(TAME)も進行中です。

 メトホルミンを服用する高齢者と服用しない高齢者に分けて、寿命のほか、心筋梗塞、がん、認知症などの発症に違いがみられるか追跡しています。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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