大阪「南港病院」の総院長「私がハイパーサーミア導入を決めたワケ」

がん温熱療法「ハイパーサーミア」には5つのメリットがある
がん温熱療法「ハイパーサーミア」には5つのメリットがある(提供写真)

 地域に根ざした医療を展開する傍ら、閉鎖した銭湯の運営を引き継ぐなど地域活性化にも積極的な南港病院(大阪市住之江区北加賀屋)は、「患者の笑顔をつくる」を理念に掲げ、患者とその家族に寄り添う医療を心がけている。それは、2次救急医療機関として地域ナンバーワンの救急患者受け入れ数、全国的に減少し社会問題化した小児科、婦人科の新設などに表れている。

■公立ができないことは民間がやる

 その南港病院が、今年1月から導入したのが、がん温熱療法「ハイパーサーミア」治療器。三木康彰総院長に話を聞いた。

「産業構造の変化で造船業が町の外に移転したため、北加賀屋の住民は高齢となったかつての造船関連労働者と、新たに移り住んできた若者や若い家族が中心です。医療ニーズも変化し、整形外科だけではなく婦人科や小児科も必要になりました。また、地域の高齢化や女性の増加により、乳がんなどの婦人科がんを含めがんが増えています。それに応えるべく、3年後に新病院建設を予定しています。その準備にと導入したのがハイパーサーミアによるがん温熱治療です」

 ハイパーサーミアによるがん温熱治療とは、がんの塊が42.5度以上の熱に弱いとの性質を利用したがん治療法のこと。ラジオで使われる周波数帯の電磁波を使って、体外から狙い撃ちする。

 がん細胞が死滅したり、増殖能が弱まったりする。がんの標準治療のひとつに採用している欧米の国もある。

「この治療法には5つのメリットがあります。1つは正常細胞を傷つけず、がん細胞だけを選択的に攻撃できること、2つ目は放射線や抗がん剤と併用することで、それぞれの治療効果を高められること、3つ目は血流が改善することで自身が持つ免疫細胞が元気になって免疫力が高まること、4つ目は目、脳、血液以外のすべてのがんが対象となり、一定の条件下では公的保険の対象なので治療費が安いこと、5つ目は治療法は患者さんが治療器の下で40~50分間横たわるだけでよく、患者さんの負担が軽いことなどです」

 さらに、抗がん剤の吸収力や放射線の感受性が高まることで薬や放射線の照射量を減らすことが可能になり、副作用が軽減されるメリットも報告されている。

 その結果、末期のがん患者の症状が安定したり、進行が遅くなるなどの症例が多数報告されている。中には、末期の膵がんで余命3カ月と言われながら、2年以上延命したケースもある。

「最近では第4のがん治療法といわれる免疫療法において、免疫チェックポイント阻害剤との併用の研究が進んでいて、従来の一般奏効率20~30%をさらにアップさせる可能性が報告されています」

大阪の「南港病院」の三木康彰総院長
大阪の「南港病院」の三木康彰総院長(提供写真)
近隣の医療機関から患者の紹介も

 むろん、どんなに優れた治療法にも副作用はある。この治療法も加熱されると皮下脂肪に硬結が生じ、痛みが出る場合がある。しかし、多くは1~2週間でその痛みは消失し、後遺症も残らない。

 三木総院長はハイパーサーミア導入の経緯をこう語る。

「導入の直接のきっかけは、私のがん体験です。実は1年前に膀胱がんと診断され、内視鏡による切除手術と、膀胱内にBCG(ウシ型弱毒結核菌)などを注入する治療を8回受けました。痛みで眠れない夜が続いて、大変苦しかった。幸い再発していませんが、いまも心配しています。それを知人である大阪の公立総合医療機関勤務のがん治療専門医に話したところ、『再発したら放射線治療やハイパーサーミア治療がある』とアドバイスされ、それが頭に残っていたのです」

 その後、この知人のがん治療専門医から聞いた話が決定打になったという。

「『本来ならウチが導入したいが予算がない』と言うのです。地域住民のため公立病院ができないなら、ウチがやろうという思いから導入を決めました。がん治療専門医が行うがん標準治療は、絶えず最新知見を取り込み定期的に見直しを行っている。しかし、がん患者さんは孤独で、治療と治療の間に不安や焦燥感を感じるし、効果が証明されて継続的に受けられるがん補助療法があれば受けたいと思うものです。私もそうでした。まして病状が進行して治療手段が少ない患者さんはなおさらです」

 ハイパーサーミアの導入が決まると、大阪の公立医療機関をはじめ、近隣の医療機関から患者の紹介があるという。

「将来的には、地域のがん補助治療の中心的存在になれれば、と考えています」

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