独白 愉快な“病人”たち

ザ・ワイルドワンズの3人がそれぞれの「がん」経験を振り返る

左から島英二さん、鳥塚しげきさん、植田芳暁さん(協力・ケネディハウス銀座)(C)日刊ゲンダイ
ザ・ワイルドワンズ(島英二さん・76歳、鳥塚しげきさん・76歳、植田芳暁さん76歳)

鳥塚 僕は2002年12月に「胃がん」が発覚して、翌年1月に胃の4分の3を切除しました。その2~3カ月前から胃にむかつきなどの違和感があり、リーダーの加瀬邦彦さん(故人)に相談したら自身がかかった医師を紹介してくれて、人生初の胃カメラをのんだのです。すると胃の中が真っ赤で生体検査をしたところ「初期の胃がん」と告げられました。

■ドラじゃないけど「ガーン!」ときた(鳥塚)

 電話でそれを聞いたときはドラマじゃないですけど「ガーン!」ときました。しかも年末の繁忙期でしたから、どうしよう……と思いました。でも「50代で進行が早いから早く入院したほうがいい」と言われたので、急きょ、臨時のメンバーを探して僕は暮れから入院したんです。

 術前の検査で胆石も3つ見つかったので胃がんのついでに胆のうも切除。開腹手術だったのですが、「鎮痛剤をたくさん入れておきました」って、なんだか親切にしてもらって術後に苦しんだ記憶はありません。

 入院中は音楽への欲望が強くなりました。早く歌いたくて発声しながら散歩していたので、おかしな人に思われたかもしれません。

 退院したのは2月14日、“バレン退院デー”でした(笑)。

■座薬を入れながらコンサートを3日間強行

植田 僕は07年2月に「大腸がん」が発覚しました。年2回受けている検診で大腸にほんの少し異常が見られたので調べてみたら……という流れで、自覚症状はありませんでした。

 初期の初期とのことだったので「手術すれば大丈夫ですよね?」と先生に聞くと、「え? まぁ……」とあまりに自信なさげだったので、この先生に命は預けられないと思って「不安だから他の病院に行きます」とハッキリ言ったんです。そうしたら同じ病院の優秀な外科の先生を紹介してくれて、この先生が当時まだ珍しかった腹腔鏡手術の名医でした。その先生に「大丈夫です」と言っていただいたので安心して手術を受けました。

 腹腔鏡手術はお腹に小さな穴を3つ開けて、そこから内視鏡や器具を入れてモニター越しに行う手術です。腹腔内にスペースをつくるため、お腹に空気を入れてパンパンにするんです。なんだか子どもの頃にカエルのお腹を膨らませて遊んでいたことを思い出しちゃって、「これはカエルの報いだな」と思いました(笑)。

 歌のために鍛えた腹直筋のそばに穴を開けたものだから、術後に痙攣に襲われました。その可能性は術前から言われていたものの、実際そうなったときには怖かったですよ。息ができないんですから。

 手術から1週間で退院しましたが、翌々日には名古屋でライブ、その次の日は浜松、さらに次の日は中野サンプラザでコンサートだったんです。痙攣が起こったら立ってもいられません。退院時にもらった座薬を入れながら、嵐のような3日間を過ごしたことは、いまだに忘れられません。

結成58年を迎えたワイルドワンズ(協力・ケネディハウス銀座)/(C)日刊ゲンダイ
■検査を欠かさないことが大事

 加瀬さんを含め、メンバーがみんながんになる中、僕は長年、人間ドックに引っかかることなく無事だったので、「自分はがんにならないんだろう」と思っていました。

 でも、かかりつけ医から「内視鏡検査をした方がいい」と、良い先生を紹介してもらって検査したところ、12年3月に「胃がん」が見つかったんです。それを皮切りに、2回目は翌年9月に「食道がん」、3回目は16年7月に再び食道がん、4回目の20年5月にも食道がんが見つかりました。いずれも早期発見できたので大事には至りませんでしたが、「やっぱりなったか」と思いました。全員がんを経験したことで、後日、加山雄三さんに「ワイルドがんズだな」ってステージでちゃかされました(笑)。

 治療はいずれも手術。手術といっても他のメンバーのときより医学が進歩していて、すべて内視鏡でやってもらえました。「内視鏡的粘膜下層剥離術」というもので、20年の手術のときはアジアからの研修生が僕の手術を見学していて、ちょっと気恥ずかしかったです。

 じつは僕も最初の胃がんの手術は興味津々で、局部麻酔で自分の手術の様子をモニターで見ていました。でも、回を重ねると「もういいや」って、麻酔で寝かせてもらうようになりましたけどね(笑)。

 何回もがんが見つかってはいますが、すべて早期。年に1回は人間ドック、大腸検査も2年に1回受けているたまものです。検査を欠かさないことが大事。

鳥塚 ホントにそう。僕は毎月、腫瘍マーカーを含めた血液検査を長年続けています。人間ドックも分割して年間通して全身を検査している。その点、加瀬さんは検査が嫌いだったよね。うちの父親もそうだったけど……。

植田 女性より男のほうがグズグズするみたい。でも、怖がらないで早く行ったほうがいいっていうのが3人の総意。そして手術となったらセカンド、サードオピニオンをしたほうがいい。医者との巡り合いは大事ですよ。悲観的にならないことも大切。「がんと言われたら笑うことばっかり考えろ」って言いたい。免疫力上げたほうが絶対にいいんだから。そうやって、僕らは結成58年を迎えました。

(聞き手=松永詠美子)

▽ザ・ワイルドワンズ 故・加瀬邦彦(享年74)を中心に結成され、1966年「想い出の渚」でデビューした4人組バンド。一時解散後81年に再結成し、現在は鳥塚しげき(ギター)、植田芳暁(ドラムス)、島英二(ベース)、加瀬邦彦の次男・加瀬友貴(ギター)で活動している。作曲・加山雄三、編曲・ミッキー吉野の新曲「はじまりの渚」が発売中。

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