これまで、糖尿病の治療薬「メトグルコ」についていい話ばかりを書いてきましたが、やはり副作用もあります。嘔吐、吐き気、食欲低下はよく見られる副作用ですが、これらは投薬を中止すれば改善します。それに対し、ひとたび起こると大変なことになるのが「乳酸アシドーシス」です。
メトグルコの働きのひとつに「肝臓で糖をつくるのを邪魔して血糖を下げる」というものがあります。糖は乳酸という物質からつくられます。乳酸は酸性の物質で、メトグルコが効き過ぎて糖に変わらず蓄積してしまうと、体が酸性に傾いて乳酸アシドーシスを引き起こします。致死率が50%にも及ぶ危険な副作用です。
乳酸アシドーシスを防ぐためには、まずは肝臓や腎臓の機能に問題がないかどうかチェックすることが重要です。糖尿病の患者さんは腎臓に問題があることが多いので、特に腎臓のチェックは欠かせません。
また、高齢者も腎臓の機能が低下している場合が多く、メトグルコの添付文書上では「75歳以上の患者には投与の適否を慎重に判断」となっています。
もっとも、この副作用の頻度は、比較的高めの報告をしている論文でも「10万人に対し数人」で決して多くはありません。「コクランレビュー」という質の高い論文を見てみると、計347の研究をまとめた7万490人の観察の中で乳酸アシドーシスの発生は認めず、メトグルコを飲んでいないグループと差がなかったことを示しています。
この研究結果から類推される乳酸アシドーシス発生の上限は「10万対4・3以下」と報告されています。
腎臓や肝臓に異常がなければ、メトグルコは安心して使える薬なのです。
医療数字のカラクリ